姫、お戯れを!!20年選手のレジェンド歌手がこんなにも志高い曲を作ってたらそう言いたくもなる。
日本代表DIVA、東芝EMIガールズの両名が『二時間だけのバカンス』に続きまたやってくれた。一聴してめちゃめちゃ好みでそのまま聴き込んだので色々書いていきたい。
浪漫と算盤
楽曲について
前回のコラボ曲、『二時間だけのバカンス』は宇多田ヒカル feat. 椎名林檎、今作は椎名林檎と宇多田ヒカルと、主・副が入れ替わりプロデュースも違う。当たり前だが、ここまで違うかね。それぞれが今までの楽曲の流れを組んだ作風になっていて、さらに進化した二人を見せる!っていう強い意志を感じる。そしてきっちり『二時間だけのバカンス』は宇多田ソング、『浪漫と算盤』は林檎ソングになってるよね。MVも、双子のような二人の切り取り方から、白と黒で対照的なルックスにして見せた今作。随所に趣を変えてる事がわかる。
で、『浪漫と算盤』は林檎姐さんが作編曲を、ピアノはいつもの変態技巧ピエロ、ヒイズミマサユ機氏が、五弦ベースはこれまた激渋な鳥越啓介氏が担当。この土台にロンドンフィルハーモニックオーケストラの演奏が収録されるという豪華絢爛さ。ま、眩しすぎる・・・この宝石達全部で何カラット?
まず、ボーカリゼーション的にはくっそ難しい曲だなと。これこの二人以外歌える人おんの?YOUTUBERの皆さま、この曲をカラオケで再現することだけはやめておけ、最初のブレスで吐血する可能性がある。よーく聴くとハモりの高低がぐるぐる入れ替わる作りになってる。
例えば、33秒〜の「の意味を宿す」部分はメインの宇多田が下ハモにいき、52秒〜の「有耶無耶にしていたい」部分はメインの林檎が下ハモにいってる。こういうギミックが随所に仕組まれており、リスナーの耳は幻惑され幸せになってゆく。あぁ・・・
そしてそして、ロンドンフィルのゴージャスさは間違い無いんだが、土台の達人ピアノと五弦ベースがあってこそだ。とにかく二人の演奏が半端ない。できる限り良いイヤホン・ヘッドホンでこの二人の「舞踏」とも言える演奏を味わってほしい。
もし未聴の方でピアノにピンときたらH ZETTRIOをどうぞ。
林檎姐さんのこの曲を作るにあたってのコメントが、
今回はとにかく、和声から旋律からなにから、いつもみたく扇情的にせぬよう注意深く編みました。
とのことで扇情的な心はグッと堪え、持ちつつもあえて隠してる印象。とは言いつつ冒頭は吐息だったりして隠しながらも漏れ出る二人の色気ががまたエロい。彼女が言うようにJPOP然としてない水のような、空気のようなまろやかな聴き心地になってると思う。ほんと好き。一生聴いてられる。
歌詞について
タイトルだけ見て、「林檎姐さんっぽいわぁ・・・」と思ったのは僕だけではないはず。後で述べるが、タイトルオチと言えるほど強い題名だ。
姐さんは作詞にあたりチャレンジしてると述べている。
言葉についても、本作では少々挑戦しています。或る日ヒカル氏が「それはゆみちん(椎名のこと)ならうまいこと書きそう」などと共通の知人らと話していたらしいテーマが「ロマンとソロバン」でした。半年ほどまえ小耳に挟んで以来「受けて立とうぞ」と力み続けた結果、仕上がったのがこの作品です。唄うのにやや照れました。
こうあるように、今回は渋沢栄一の「論語と算盤」をもじったタイトルにしてるのが一つのキー。
渋沢栄一は福沢諭吉に代わり新一万円札の「顔」となる経済界の偉人。その著作「論語と算盤」には「私は論語の教訓に従って商売し、利殖を図ることができると考えた」とある。つまり、道徳と利潤の追求の両立。
(渋沢栄一について詳細に触れていくと2万字くらいになり僕が死んでしまうのでそんなに触れない。)
大事なことは、この相反する考え方をサンプリング(引用し、再構築)してタイトルがつけられたということ。
つまり、
浪漫=夢や冒険などへの強いあこがれをもつこと
算盤=利潤を追求すること
とすれば、ロマンチスト且つリアリストでいるという無茶な決意を謳ってるって事がタイトルで語られてるって事だ。麦わらのルフィが算盤弾いてるとこ想像できますか?無理じゃね?って思いますよね。僕もそう思います。
そう、この曲は林檎姐さんの心の奥底から発せられる熱い決意表明の曲なのです。あー痺れる。
曲冒頭からいきなり大事な歌詞。
主義をもって利益を成した場合は商いが食い扶持以上の意味を宿す
義務と権利双方重んじつつ飽く迄両者割合は有耶無耶にしていたい
「主義」は「美学」と言い換えても良いだろうが、商いが食い扶持以上の「何か」を帯びてくる事が語られている。そしてここでも「義務と権利」という相反するワード。「叶えたい事」と「しなきゃいけない事」とそのバランス感覚。
そしてこの歌で最も重要な歌詞がコチラ。
きっと、そう浪漫抱えたら算盤弾いて
両極のど真中狙い撃てお願い勇気をくれ
『ありあまる富』で無形の富について歌った彼女が、ここにきてマネーも志も両方取りに来た。彼女の和を重んじる「美学」と、音楽業界というの巨大な産業で鳴らされる音楽という「リアル」の調和。
「自分進化続けたい」と高らかに歌う彼女は来たる東京五輪の音楽を担う。重責を吹き飛ばす決意の歌がここにある。必聴。
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