この『旅路』という曲に僕は4度違う角度から楽しませてもらってる。
1回目はドラマ『にじいろカルテ』のドラマ主題歌として。
2回目は神戸公演での弾き語り演奏で。
3回目は音源の配信リリースで。
4回目は初のTV(報道ステーション)での演奏で。
いつも違う表情を見せてくれる懐が広い曲、『旅路』について今回はやいやい書いていく。
旅路
ドラマタイアップ
藤井風史上、ドラマどころかタイアップ自体が初めてという記念すべき一曲。ユニバーサルがマジで慎重に仕事選んでるんだろうけど、ホントにレア。大体『優しさ』がノンタイアップなのどうなってんねん、謎すぎる。とか思うけど声は沢山かかりつつも、タイアップ用に書下ろしてないので丁重にお断りってとこなのかな?
自分が作りたいように作曲したりカバーしたりするのではなく、脚本を読み込んで人にプロダクトとして提供する事は通常の曲とまた違う難しさがある。実際にライブMCでも、脚本に寄り添いつつも「藤井風の楽曲である」という事の両立の難しさを語っていた。タイアップウェーーイなんて微塵も思っていない、その誠実な姿勢にリスペクトしつつどんな楽曲に仕上がるのか楽しみにしていた。
にじいろカルテ
そして待ちに待ったドラマ 1話&『旅路』初聴。
歌詞に耳をそば立てつつ高畑充希演じる真空先生の泣き笑いのバックには『旅路』・・・あったけぇ。
肝心の『にじいろカルテ』、今のところめっちゃ好き。 てか普通に泣いたわ。しかも旅路かかってないとこで。 大筋、カントリーサイドでの医療系ドラマ。『 Dr.コトー診療所』が海ならこっちは山。
まずこのドラマの座組が最高。高畑充希、井浦新、北村匠海といった主演をはれる3人が演じる真空、朔、太陽のトリオ。ちょっとリアリティが・・・とは思いつつもひとつ屋根の下で暮らす生活と日々の掛け合いがめちゃめちゃ好き。
特に朔先生。アンナチュラルの中堂という超絶ハマり役と絶対にかぶらないキャラ造形にしつつも、妻とはやはり死別しているという酷なキャラクター。業界の脚本・監督はなんか彼に重犯罪でも犯されたんですかね?頼むから井浦新を幸せにしてやってくれ。
他にも、水野美紀、安達祐実、西田尚美といった村の看板娘たちや村のおじいちゃんと化した泉谷しげる・モト冬樹らとにかくこの辺りの演技力がパない。虹ノ村で生きる人々をこんなにも生き生きと、そしてそれぞれに事情を抱えたキャラクターに魅せる俳優さん達の凄さを感じる。あと何と言っても安達祐実可愛すぎて死ぬ。いや、もう10回くらい死んでる。
特に3話。雪乃(安達祐実)の認知症を救おうとケアするシーンには泣いた。記憶を思い出させるのではなく、丁寧に丁寧にもう一度整理して、頭に入れ直してもらうこの描写。一瞬だけ昔の3人に戻るこの演出の部分で僕は泣きましたよ。
反則。逆らい難い素敵描写。
言葉で語らずともずっと三人でこうやって助け合ってきたのだとわかる。
ここに真空が加わった4人がこれまた傑作の『海街diary』の4姉妹と少し重なって「何?この4人一生見てられる・・・」となった。
あと、この物語の正ヒロインである太陽君(北村匠海)の「何もない」事こそが地獄であるという事にもかなり共感して、ちょっと苦しくなって救われた。
村人達は大小あれどみな等しく「色々ある」。されどその色々が新しい出会いや幸せのきっかけになる、事もあるという紛れもない真実が描かれている素敵なドラマ。主題歌『旅路』と相互に補完し合あう。
藤井風オマージュ
真空(高畑充希)はちょいちょい「キリがない」とか優しさを施された後「恥ずかしい」と言ったり、藤井風楽曲オマージュを感じるセリフを言う。どこまで意図的か、僕の勘繰り過ぎな可能性も十分にあるが、この辺りキャラクター造形の根幹を過去の藤井風楽曲達が関係してきているとも考えられる。妄想乙。
楽曲について
ビートミュージック
忘れていた、"Yaffle"という男が稀代のビートメイカーであり、ビートマニアだったという事を・・・!まぁ倒置法に特に意味は無いんですけどね。イントロ聴いてあらためてプロデューサーYaffleの凄さを思った訳ですよ。
この煙たいもやがかかった、且つタメが効いたドラムイントロ。
渋い!渋すぎる!!
こんなの売れんの?と心配したくなるレベル。かなりソウル色強いドラムで泣く子も黙る超クラシック(名曲)、スティーヴィーのSuperstitionとか、
今一番勢いがある新進気鋭のHIPHOPシンガー・プロデューサーのMake It Betterとかドラムで始まる素晴らしい曲がたくさんある。
開始0秒で歌!って曲が増えてるけど、俺はかっけーイントロが好き。これらのイントロでご飯3杯いけちゃう僕みたいな変な奴は何を思うかって、藤井風の音楽は基本「ビートミュージック」ってとこなんですよ。もっと単調なリズムにして歌と歌詞を全面に出せば売れ行きよくなると思うんですよね、客観的に。でも絶対そうしないし、してほしくない。なぜなら藤井風が育ってきた背景には圧倒的なブラックミュージックへの愛(リスペクト)があるからなんですよ。
はっきりわかりやすく「歌」と「メロディ」が前に出ているJPOPと違ってブラックミュージックはなんなら「踊るために曲がある」と言っても過言でないくらいリズム隊が前に出ているし、歌も楽器の一部。この辺りの洋邦をめちゃめちゃうまく融合させ、絶妙なアレンジに仕上げているのが藤井風&Yaffleという名コンビ。
そんなスモーキーでタメの効いたビートから音像が段々とクリアになり、その上にメロディを奏でるギターと上物のエレピが、そして風君のあったかく包み込むような声が、素敵にセンス良く楽曲を彩るというのがこの曲の本質なんす。
『へでもねーよ』や『調子のっちゃって』の変態的且つ現代的ビートを作ったと思えばこんなにもオールドスクールなビートもアレンジできるYaffleマジYaffle。
神戸公演でピアノの弾き語り演奏を聴いた後はピアノが全面に出た『帰ろう』の流れを組むと思ってたんだけど、とんでもない!リリース後に聴いたらまったく違う曲の表情を見て驚きそして楽しめた。
藤井風は顔で歌う
最初のTV歌唱がMステでもなくCDTVでもなくシブヤノオトでもなく報ステて。
どうなってねんそれ。そら業界もざわつくわ。
第一声から暖かく包み込む歌声。気持ち息量多めにして聴き心地の良いAメロからサビではこれでもかと言うくらい表情豊かに歌う。 これ実はめっちゃ大事で感情が乗って見る人に伝わるだけでなく、声は通るしピッチもよくなったりする。
あと、歌と歌詞の連動性についてはぜひ述べたい。
過去にも再三書いてきたが、藤井風という男は一曲の中で歌詞と連動して歌唱を使い分ける。
例えば『へでもねーよ』では全体的な怒りトーンの強いボーカルから「かと思いきや正反対 とても平穏な新世界 願うはここへずっと居たい もう限界」と歌詞が弱気になった瞬間に心情を歌も分かりやすく連動させてトーンを抑えて歌っているし、『何なんw』も感情によって強弱を使い分ける事で結果的に楽曲全体の抑揚に繋がっている。天然なのか計算なのかわからんがここまで変えるアーティストは珍しい。
今回もサビの「先のなぁーがい旅の中で」の「長い」っていう強調ポイント。ここはしっかり伸ばして人生という旅路の長さを「歌で表現してる」。「愛したり」を歌う時はあえて抜いてファルセットで歌い、愛を表現する。これは詩集ではなく歌詞だからこそできる表現。文字で書くとアホみたいで当たり前っぽいけど理屈じゃなく心に刻みつけてくるのはこういう細かい事の積み重ね。ただ音をかき鳴らすのではなく、正しく表現力を駆使して楽曲を届けるところが藤井風が生粋の表現者たる所以だと思う。
歌詞について
集大成
歌詞をじっくり眺めてみると藤井風の過去楽曲が凝縮された集大成的なテーマが歌われている事がわかる。わかりやすいとことで言えば青春病との関連性。
この町は相変わらず青春です
心の奥底ではいつも永遠を求めています
『 青春病』で歌った「青春からの脱却」そして「青春は一瞬の煌めき」である事。これらを頭では理解しつつも、心では「求めている」し「青春の面影を見てしまう」という葛藤がこの両曲からわかる。
これからまた色んな愛を受けとってあなたに返すだろう
は『帰ろう』 の「与える」精神に通ずるし、「優しくなれた」とか「恥ずかしい」とか、『優しさ』を思わせるワードも登場する。
そして『旅路』のキラーフレーズが「色々あるけど」。
この曖昧で人間らしいフレーズが、「色々あるけど」それさえも幸せのトリガーと成り得る。人を愛し、愛され人生の旅路を続けていくという意味を帯びた包括的な曲にしてると強く感じる。
この『旅路』が今までの楽曲達の根幹となるテーマが凝縮され、一貫性を持った楽曲ってことは間違いないと思う。
あとは唐突な「お元気ですか」な。
何?陽水なの?風と太陽と水なの?陽水と風で自然界の調和がヤバイ。
それと、報ステを観てからも印象は変わった。にじいろカルテの現場に足を運んで書いた歌詞なので当然ドラマにも寄り添った内容かと視野狭く思い込んでたんだけど、放送を観てたら、色々な夢や日常を諦めざるをえなかった後輩達へのメッセージとしても響く曲になっている事に気づいた。
この宇宙が教室なら
隣同士学びは続く
どうしようもない理不尽さに直面した全ての若人達への藤井風なりの激励が込められていると感じた瞬間、学生でもなんでもない僕が浄化され空に消えていきました。
「色々ある」あなた達全員に寄り添う歌、『旅路』。
アンタやっぱ風だよ。
きっと合唱コンや卒業式の歌として愛される曲になると思う。
いかがだったろうか
ポイントとして、
1.深く味わいたいならにじいろカルテは絶対見るべし
2.激渋Coolなリズム隊
3.藤井風は顔で歌う
4.これまでの集大成かつドラマにも若人にも寄り添う懐の広い歌詞
これくらいが伝わればもうそれでヨシ。
青春病以降、このクオリティ連発されたら次のアルバム恐ろしい事になるのではと今から首をながぁーくして待ってる。超待ってる。
それではアディオス。