『Casket Girl』のMVが色々とツボだったので、あれこれ書き連ねてゆく。
日本を含むワールドツアーも発表され、いつか直接この曲を目一杯味わうためにも理解を深めておきたい。
途中難しい話になって「何を言うてるの」ってなっても愛ゆえだと思って許してくれよな!

前置き
『キャスケット・ガール』というタイトルを聞いてどんなストーリーを思い浮かべる?
アルバム『Prema』の各トラックタイトルが発表された時、1曲目に挙げられていたのがこの楽曲。おぉ、キャスケット帽被った可愛らしい女の子の話クルー(゚∀゚)!!
くらいに思ってたら”Casquette”じゃなくて”Casket”=棺だった。いや”棺ガール”て。
いいですか?約3年振り、全世界待望の3rdアルバムの1曲目が「棺」スタートですよ。
こんなwordチョイスするん藤井風以外におるぅ?
で、迎えた9月4日、フラゲしたCDを慎重に開けて再生ボタンを押して流れてきたあの長尺のイントロ。令和の即サビドンッ!!の対極。
コッコッコッ!からあの激しくも憂いを帯びたギターサウンドで完全にKO。棺から地の底をはい出るようにうねるベースと風ハミング。ボーカルの声色もローを効かせ、意識的にウィスパー気味にしてあるその繊細な歌声に「Oh...this is so Fujii Kaze!!」ってなったのを鮮明に覚えている。
で、MV
僕ね、今まで見た事が無い藤井風を見たい、聴きたい欲が強いんですよね。
今回はかねてから見てみたさMAXだった藤井風×ロングヘアー!しかも70'sロックスターとは‥いきなり鼻血9Lの血だまり作ってるんですよこちとら。

あと、長めのハーフアップも最高すぎ。全てのハーフアップ男子を過去にする漢、藤井風。
とまぁそんな具合に既にビジュで優勝してるんだから細けーこたぁいいんだよ、という声も聞こえてきそうだが近年のMVでは最も構造がトリッキーなので内容にも踏み込んでいきたい。
自分的MV解釈
舞台はメキシコ荒野のモーテルと赤いコンバーチブル(Ford Galaxy)。デカい!カッケー!!燃費悪い!!!の権化みたいな車。リッター4キロでハイオク車とか僕の財布が棺に入るレベル。
ざっとストーリーラインをまとめると
①70'sロックスター藤井風がTVショウに出演している映像をモーテルで観るハーフアップ風が赤いコンバーチブルで女性(Hope)と旅に出る
②逃走中の犯人(Hitcher)が同乗する。"HWY2 HELL"という表記や看板の"No Return"という表記からこの車自体が「棺」であり、地獄行きであることが示唆される
③3人の宴の後、Hitcherに車を奪われ、HOPEと二人きりで昇る朝陽に照らされエンドロール
④と思いきや実はその旅自体がモーテルのテレビに映り、ロードムービーの一幕であったことが示唆され、所謂「入れ子構造」になっていたことがわかる。マトリョーシカ的な。
という中々に入り組んだお話し。
先に自分の解釈として、各登場人物や物が何を象徴しているのか書いていくと、
・コンバーチブル:棺=Casket
⇒みんな大好き『花』MVにおいても車を棺として扱い、そこから蘇る描写がある。

・同乗者の女性:唯一固有の名前"Hope"が与えられている
・同乗者の男性:The Hitcher(ヒッチハイカー)として逃走中の犯人が旅に加わる
⇒混沌、怠惰、破壊といったネガティブな要素の象徴?サイコスリラージャンルにおいて"The Hitcher"は殺人犯として描かれることもある。
・ロックスター:煌びやかな虚像
⇒サイケデリックなTV Showの演出含め70'sロックスターとして虚栄心の象徴?
車に乗る藤井風とは同一人物の可能性が高い。Hopeらしき人物が観客として映り込んでいるので、繋がった世界の可能性も十分あって、画面の中の虚像を観て、自身の内面を省みる旅という構図になってる気がしてる。
挙げてきたように周到に練られた短編映画のような脚本であり深掘り要素が沢山ある。今回は曲のテーマともなっており、唯一固有の名前が付いたキャラクターである同乗者"Hope"にフォーカスして深堀りしていく。
Hopeの光と影
この楽曲のテーマに関して本人の言葉を引用すると、
自分自身の怠惰だったり悪魔だったりみたいなものとどう向き合っていくのか
(co-writeした)シャイ・カーターとこのセクションはホープが見えて欲しい、希望としたいと話した
MUSICA 10月号より引用 ()内は筆者補足
やはり名前が”Hope”であることは楽曲のテーマと密接に関わってきそう。
ただ、そこは藤井風。単純に希望=明るい未来ということではなく自分の解釈ではこの希望もある種のエゴであると捉えている節がある。
いきなり核心に触れてしまうが、『grace』やパナスタでのライブといった節目となる出来事を経て一歩また一歩と"理想の自分≒Higher-Self"に近づいた藤井風。
その驚きの白さ、精神的な境地への到達とは裏腹に「やれることはやり切った」上で、燃え尽き症候群に陥った彼が求めたものとは何だったのか。
そう。それが、『I Need U Back』における"Passion"であり『Casket Girl』における"Hope"だったのではないか。
人生それなりに長く生きてきたが、"情熱"や"希望"は無条件に良きものと思い込んでいたし、ぶっちゃけ今でもそう。でも見方を変えるとどちらも"自分が"何かを成し遂げるための原動力や願いであり、そういう意味で"エゴ"(自我)でもあると。エゴを捨て去ろうと生きてきた彼が逆説的にエゴを欲するとは誰が想像しただろうか。
一元的な物事などなく、多層的で必ず両面がある。だから、人間である限り、"Hope"は簡単に"Desire(欲望)"に変わりうるんだね。あ、ここのBGMは明菜でお願いします。ゲラッゲラッゲラッ!
そんなHope──名前は希望、でも実体はエゴと旅しているという状況をまず理解する必要がある。
実際にHopeちゃんは旅に出る前に大切なぬいぐるみ(幼さや執着の象徴)を荷物に詰める描写があったり、享楽に身を委ねる奔放さを見せたりと完全なる善として扱われていないのは明らかだ。

そんな欲望と自由の境界線を揺れ動く存在。
その揺れは、歌詞や映像だけでなく、音楽そのものに刻まれている。
『Casket Girl』は、というより藤井風楽曲は本人も「明るいだけ、暗いだけっていう曲にならないようにしようっていう想いがあるかもしれない」と語るように一曲の中でメジャーとマイナーを行き来する。爽やかに憂いた歌詞を歌うみたいなこともあるよね。ここも揺れ動いている。
あと、自分的に震えたのは印象的なサビの"Casket Girl"。どのフレーズも歌い方や音に変化をつけている。
無論、音楽的な気持ちよさとか一曲の中で変化をつけて飽きさせないという効果もあるんだけど、もう一歩踏み込んで、Hopeの多層性*を"声"で、"音"で描き、"Casket Girl"の揺れ動く様を表現しようとしているのかもしれないね。ずっと述べてきているようにHopeだって一定ではない。執着を抱えたまま光へ向かい、光の中でなお影を携える。そして手放した瞬間にだけ本物の希望が立ち上がる─その道筋を、ハーモニーの色変えとサビの発声、音の変化で体感させる…藤井風怖い。
そして、個人的に最も気になっているのが最終局面の描写。
クライマックス:再生のための儀式
Hopeが手で銃を作り、藤井風の胸を撃ち抜く。しかもここ、風氏本人が手をとって銃で撃たせている。

この後撃たれるものの血が出たのに傷はない。現実の暴力を否定し、「古い自分の死」へと意味を転換する。その後Hitcherに車を奪われ、結果的に荷物を手放し、地獄行きの棺から脱出することで自由を得るための儀式が完了する。
そしてHopeと2人きりになり、朝陽を浴びてロードムービーが終幕する。

ここの読み解きがまた難しい。
つまるところ、このMV自体がどう希望=エゴと向き合うか、という生き方そのものを提示されていると思っていて、藤井風のフェーズがまた一段変化したとみている。
一つ一つ荷物を手放そうとしてきた彼が、もはや一周して、エゴをどう乗りこなして生きていくのかという境地に達したのではないかというのが今のところ腑に落ちてる。
歌詞の最後、
Casket girl, we got some kind of freedom
キャスケット・ガール俺らはある種の自由を得た
MVよろしくハッピーエンドはハッピーエンドなんだけど、なんか煮え切らない感じよね。"some kind of freedom"なんて表現は初めて聞いたけど、完全なる自由を得た訳ではない、また混沌・破壊・欲望は繰り返し得る、っていうメッセージにも取れる。
もうね、藤井風おもしろすぎ!
いかがだったろうか
元気しとる? メール受け取ってくれてアウィガロゥ。
“Casket Girl” のMV出るん、喜んでくれとる?
めっちゃ嬉しいんじゃけど、この作品ほんまワシにとって特別な一作になっとって。
なんでかって言われてもよう説明できんしみんなが同じように感じてくれるかはわからんのじゃけど、とにかくそうなんよ。
メキシコでこの映像撮り終えて帰る時、胸がぎゅーっとなってしまって。
“あぁ、これは今までと違うもんになる”って、なんか確信したんよ。
ワシも日々いろいろ変わっとって、少しずつでも進化できとったらええなぁ思っとる。
最新のワシを通して、ちょびっとでも自由みたいなもんが伝わったら嬉しいんじゃけどな。
ほんであの儚い瞬間を、チームのみんながほんま美しくすくい取ってくれとるんよ。
いつもワシに“もっと良うなれるチャンス”をくれるみんなに、心からありがとうって伝えたい。
ずっと成長して、光っとっていこな。
神さまの恵みがありますように。
2025/11/28 風さんからのメッセージ自分的和訳
こんな風に本人にとっても特別なMVになっているんだからとことん味わって研究し尽くしたいよね。
各描写で本当はまだまだ気になるところは沢山あって指輪とはめる指の変化が何を表すかとか、オレンジ色の布が表す意味、最後のクリーニングスタッフがクレジットされない理由や掃除の意味(浄化?)とか∞。
長くなってきたので一旦〆るけど、気づいたことや自身の解釈があったらぜひ教えてほしい。供に愛でてゆきませう。
それでは、お元気で。
