僕はレベル40

心が動いたことをかいていく

カラカラな心に降り注ぐ藤井風という恵みの雨。『満ちてゆく』について

 

Fujii Kaze Instagramより引用。おじい風。

藤井風は捨てる。

とにかく捨てる。

 

物や情報に溢れた現代。忙しい日常に追われながら本当に必要なものは一体何なのか?なーんて立ち止まって考える余裕なんてない。いや、時に頭をマヒさせ考えないようにすらしている。

 

それでも藤井風は手放す。

そして軽くなる。

 

何かを手に入れることで物的に満たされるよりも、手放して軽くなる事で満ちてゆく、溢れていくという逆説的なメッセージを発する藤井風について考えてゆきたい。

 

曲の成り立ち

今作『満ちてゆく』は2024年3月22日に公開される「四月になれば彼女は」の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。またもリリースする楽曲にタイアップがつく風氏。ただ、なんでもかんでもタイアップするかと言われるとそうではない。彼の核となる精神性が発露する形で楽曲となった時に、うまくハマるのかこれが重要。

ちょっと長めに引用する。

新しいことをすることが好きで。でも、自分が歌にするべきだと思っているメッセージが変わるわけでもないし、それはほぼ一つしかない。その核みたいなものが揺るぎようもないものだからこそ、次はどういうアプローチでそれを発表できる余地があるのか、他に方法があるのかどうか、自分では全然わからなくなっていたところでした。だから、こういう外側からの提案がなかったら、次の曲はもっと時間がかかっていたかもしれないです。同じことを繰り返さなくていいような、全く違うアプローチの方法を模索していて、そこにありがたい話がうまくハマったと思ってます。

引用:<インタビュー>藤井 風に導きを与えた“第三のデビュー曲”「Workin' Hard」ができるまで | Special | Billboard JAPAN

タイアップが風さんの感覚を刺激するきっかけになっていることが読み取れる。今自分が何を歌うべきか、歌いたいのかを定める方法が増えたのはとても良き。

で、マネージャーずっず氏のダイアリーによれば、2022年には既に山田智和監督による激熱オファーがあり、そこから川村元気プロデューサーの正式オファーを経ての制作。

相変わらず年上男子にモテモテな風氏。もう人たらしどころじゃあねぇ、リアルメロメロの実の能力者。現代に蘇った楊貴妃。出会う人出会う人虜にしてく罪の香りが発せられてるに違いねぇ。僕なんて会ったことすら無いのにメロメロなんだから直接なんて会ったらてっちん以上の血だまりを作ってゲル状になってしまうわきっと。

そんな複数方向からのラブコールに対し、「できるかどうかはわからないけど、やってみたいです」という前向きな返事で、神聖な教会にてこの曲を書き上げたという。

愛の不在を描いたラブストーリーに曲を添えるというお話をいただき、これを機に人生で初めてラブソングというものを書いてみようと意気込んでいました。しかし出来上がったものはこれまでずっと表現していたものの延長線上にありました。始まりがあるものには終わりがあるということ。愛は求めるものではなく、すでにたくさん持っているもの。与えれば与えるほど、「満ちてゆく」もの。

引用:藤井 風、新曲「満ちてゆく」配信スタート 山田智和が監督したMVも公開 | Daily News | Billboard JAPAN

もうコメント読んでるだけで蕩けるぅ。先ほど引用したインタビューと一切ブレずにこの楽曲の制作にも臨んだこと、藤井風の歌は恋愛感情も内包された大きな大きな愛の歌であることがわかるが、この映画との関連性については視聴後にMVとの比較も交えつつ改めて語りたい。現時点でMVについて一言だけ語るとすれば、「今までに誰も観た事がない藤井風を引き出した」、これで山田監督の大勝利でしょう。

 

楽曲について

ヤッフルヤッフル♪

映画のトレーラーを視聴し、初めて『満ちてゆく』の一端に触れた時にわかった。

あ、これヤフさんだわ。

 

で、結果がこれ。

藤井風 YOUTUBEより

この並びやっぱ嬉すぃ。ね??僕の耳も捨てたもんじゃないわ。

まずは曲の展開から。構成としては

①ピアノの弾き語りでじっくりと浸る→

②ビートインで軽快に→

③間奏の風シンセにて浮遊→

④ブリッジはブレイクし滂沱の涙→

⑤大サビで激しく僕らは満ちてゆく

といった具合。そうさな、『帰ろう』の展開に『優しさ』と『ガーデン』の終盤の激しさを足したようなイメージだろうか。

やはり驚くのは曲の壮大さと軽さを両立させているところ。

この手のバラッド曲はストリングスをアレンジの核としてより重厚に、荘厳にする傾向にあるんだけど、今作の「軽くなる」というテーマから外れるからそうしなかったのかなぁと妄想。だから、「思ったより軽かったね」という感想が浮かんだ人は正にヤフ風の狙い通りってワケ!特に2番からビートインはMVのサラリーマン風の登場と合わせられてて楽曲としてもMVとしても展開が美味しいところ。しっかり合わせた山田監督も素敵ね。

 

で、歌

歌手としてのスキル上昇が止まることを知らない藤井風。完全に翼授けられてる。

出だしから低音が痺れまくる訳なんだが、今作の白眉はやはり「満ちてゆ」から「く」でしょう。

最近のJ-POPはHIP HOPやボカロの影響も受けて、歌の符割*1がどんどん複雑化していっている。YOASOBIの『アイドル』とかCreepy Nutsの『Bling‐Bang‐Bang‐Born』なんかがその良い例。音の置き所が難しくなる=カラオケで歌うの超ムズい、みたいな図式だ。藤井風楽曲で言えば"Workin' Hard"とかね。

今作はそんな潮流からは離れた王道の歌い方ではあるんだが、そこは普通を避ける風さん。「満ちてゆく」という5文字の置き所、タメ、そして歌い方の変化、音の高低で聴き手がひっかかる「フック」を作っている。このセンスよ。

勿論それは聴き手が「お?」と思うだけでなく、楽曲の進行とともに変化する満ち度合いも表しているはず

だから1番のサビではちょい満ちから半満ちだが、ラストにかけて満ち満ちて溢れ出してゆく様が音として表現されてるってことなんですよ!

大事なので強調しちゃうけど、5文字というのは一緒なんです、どの「満ちてゆく」も。なのに人の心の変化をこうも鮮明に表してしまえること、この「表現者 藤井風」に僕はいつもいつも感動してしまう。感情が満ち溢れてしまう。

他にも細かく積み重ねられるメリスマがどうだとか、ブリッジの音色が良すぎるとか色々×∞あるんだが、2万字いくので割愛。

 

そして歌詞

今作の自分的キラーフレーズは

愛される為に愛すのは悲劇

カラカラな心にお恵みを

です。特に「心にお恵みを」の音階も含めて完全に優勝。聴くたびに、ブチ上がるし震えてる。

しかもここ、英訳もすんばらしくって"Rain of blessings on our dried-out hearts"というワードチョイスがまた粋。ゴスペル音楽等の宗教的な神の愛や恵って"Blessing"と表現されるんだけど"Rain of Blessing"にすることでカラカラな心に恵が雨のように降り注ぐっていうニュアンスを完っ璧に表現してる。

そしてそしてぇ!"Free" Liveでも本人が放った「恵みの雨」とも掛かっている。

もう恵み降り注ぎすぎて藤井雨になっとる。

僕思うんですけど、別に激しい楽曲だからアガるとかバラードだからしんみりとかじゃないんですよ。物凄い何かに触れた時に激しく体も心揺さぶられてしまう、そんなもんです。

日産スタジアムで『満ちてゆく』にてぴょんぴょんブチ上ってる輩がいたらきっと僕です。先に謝るごめんっ!

いかがだったろうか

これに映画の感動も押し寄せてくるんでしょ?目が取れちゃいますよ僕。

3月22日、金曜日。「四月になれば彼女は」公開。主題歌担当の発表から長かったようで短いふた月が終わる。藤井風が何を感じ、何を音楽にしたのか、その答え合わせがやっとできる。

「有給を取る」…そんな言葉は使う必要がねーんだ。なぜならオレやオレたちの仲間はその言葉を頭の中に思い浮かべた時には!実際に有給を取っちまってもうすでに終わってるからだッ!だから使った事がねぇーッ「有給を取った」なら使ってもいいッ!

プロシュートの兄貴©集英社



という訳で有給をいただきまして初日に映画観てきまーす♪

 

それでは、お元気で。

 

 

 

*1:楽曲の音符に対してどう歌を置いていくか、ということ

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