僕はレベル40

心が動いたことをかいていく

藤井風2ndアルバムレビュー。"LOVE ALL SERVE ALL"こそが今世界に必要な心意気だ

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藤井風公式HPより

Heal the World』という曲をご存知だろうか?藤井風が最も敬愛するアーティスト、Michael Jacksonの代表曲の一つだ。

この曲は"Free" Live 2021においても歌われた*1楽曲。「世界を癒そう」という非常に壮大なテーマを扱ってはいるものの、「Make a little space, Make a better place(小さくても良いから踏み出してみよう)」というミクロの行動がマクロの世界を変えられる、という強い意志を歌っている。

Love is strong, it only cares for joyful giving

(愛は強い、そして愛こそが喜び与える事を生むんだ)

ここなんて今作テーマそのものと言っても過言ではない。アルバム何周も聴きこんだ今、このマイコーの精神性、特に「隣人愛」とでも呼ぶべき他者を愛し与える心を強く受け継いでいるのが、藤井風の新作『LOVE ALL SERVE ALL』だと確信している。

奇しくも1stアルバムのレビューを書いた時と全く同じ記事タイトルになってしまったが、未だに収束を見せないコロナ禍、ウクライナ・ロシア情勢といった混迷を極める世界において、「他者を愛し、他者に奉仕(行動)する」というメッセージは最も基本的でありながら、大切な心掛けであると思えてならない。

 
 
 
 
 
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と、書いていたら3/31の「オールナイトニッポン」でオープニングも弾いてくれた。考えが少しシンクロしたようで嬉しい。

 

まぁそんなことを連々と色々と書いていく。

ちなみにこっから長いよ?

 

アルバムについて(前作比較)

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素敵な風スマイル

あらためて『LOVE ALL SERVE ALL』(以下LASA)というタイトル。前作『HELP EVER HURT NEVER』(以下HEHN)と同じく四つの語で構成されている。アルバム毎にナンバーを振っていったり、規則性を持たせるアーティストも多いが、この四語構成は風アルバムとして非常にしっくりくる。

そして意味。アルバム付属ブックレットにはLASAは「愛全奉全」と四字熟語的に訳されており、単純に解釈するなら全てを愛し全てに奉仕する、となる。ここで大事なのが、愛し、そして他者に尽くすという事だ。個人的にタイトル付けにはアーティストの矜持や美学が現れると思っているので、この愛した上で他者のために行動する、という事まで含めて大切にしている事がよくわかる。

で、肝心の楽曲についてだが、HEHNはデビュー前からの珠玉の楽曲達を並べた粒の大きいアルバムという印象で、『風よ』といった自己を投影した祈りのような楽曲、『罪の香り』といったネオ歌謡曲とでも言うべき楽曲など音色がかなりバラエティに富んでおり、『死ぬのがいいわ』や『帰ろう』などの落差でジェットコースターのようにクラクラする感覚があった。

今作LASAではより洗練され、アルバムトータルで聴く「コンセプトアルバム」としてのテイストが増したように思う。それは後に語るが主にアルバム曲が収録されている4~9曲目の印象がそうさせているかもしれない。

現段階での自分の正直な感想としては、初聴時に脳天をブチ抜かれ、永遠の初恋の人になってしまったHEHNに比べて、衝撃はHEHNよりも少ないけれどアルバムとしての完成度が高く、5年後、10年後に聴いて好きになりそうなのはLASAだな、というくらい。僕はちょっとHEHNを聴きすぎた人でフェアじゃないので、もう少し後にならないとどっちが好きかはわからないかな。

あと、一番成長したのは歌唱力だと思っていて、間違いなくLASAの風歌は完全にシンガーとして翼が生えたと思う。ここら辺は曲レビューで触れる。

 

全曲レビュー

こっからは全曲に渡ってレビューしていく。なお特典の『LOVE ALL COVER ALL』はどこかのタイミングでまた書く、はず。

 

01. きらり

もはや押しも押されぬ藤井風の人気曲であり自身No.1ヒット曲となった『きらり』。

内容については過去にしっかり書いたので、こちらを参照いただきたいが、あらためてこの曲が始めて能動的に愛を歌った楽曲である事はあらためて注目したい。

imlv40.hatenablog.com

 

そう、「動機は愛が良い」という強い意志表示をはじめてしたのがこの曲。

今にして思えば、この辺りではLASAの根底に流れる「愛」のテーマはこの曲で決まっていたんやなと。この流れの延長に『まつり』があるという意味でも正しい曲配置。

02. まつり

LASAのリード曲であり、この曲こそが藤井風の新章を表していると言っても過言ではないと思う。「もう愛しか感じたくもない」というワードチョイスだけでどれほど風本人が愛モードになってるかがよくわかる。一聴して篠笛と祭囃子が鳴る楽しい曲と思いきや、歌詞に内包されたメッセージや音の洗練は恐ろしく深い。

こちらも最近書いた。藤井風ばっか書いてんな、僕。

 

03. へでもねーよ (LASA edit)

LASA edit初聴時、相当笑ってしまった。そう、また「こう来るか」という笑いだ。

シングルリリース時、怒りを前面に押し出した楽曲・パフォーマンスも時が経って心境の変化を反映したアレンジとなっていて、分かりやすいところで、イントロのBEEP音(サイレン)が三味線?っぽい音に変換されていたり、キックの打音が和太鼓のようにエディットされており、聴こえ方がえらい違う。『まつり』からの「和」の流れを壊さない事を大事にしているように感じる。歌詞自体は変更無いものの、変なところで半音下げて歌ってたり、微細にアレンジしているっぽい。(正直どんな効果はよくわからんが)。しっかし何度聴いてもこの曲のYaffle氏のビート職人っぷりには驚いてしまう。絶対無理だけど300人キャパの会場だったらこの曲一番盛り上がれると思う、マジで。

 

04. やば。

『何なんw』、『もうええわ』、に続き、本人の口癖を曲名にしたというこの曲。

音色としては80’s後半から90’s R&Bナンバー。イントロの感じとかBrian McKnightとか思い出したけどね、とにかく歴代風楽曲で一番R&Bしてる。

この音色ならば男女のLove Songが定番中の定番、というかそれ以外何歌うねん?というムードではあるが、この『やば。』で歌われている愛は真の意味は男女の恋愛よりも、もっと根源的な”Higher Self”を歌っていると思われる。この点、『何なんw』やMISIAに楽曲提供した『Higher Love』とも通じる。

さっさと行こうか もっと遠くへ 高いとこまで

その目を覚まして どこまでも どこまでも

個人的に好きなラインは

何度も何度も墓まで行って何度も何度もその手合わして

この墓がリアルなお墓か精神的ものなのかはわからないが、相当なインパクト。

歌については低音から高音まで、歌手としての修練と成長が感じられる。これ歌いこなすのにどれだけの練習をこなしてきたかを想像しただけで泣ける。細かい語尾の処理、ブレッシング、ミドルボイスとファルセットの行き来・・・挙げるとキリがないくらい様々なテクニックが詰まってる。そしてこの曲でもR&Bシンガーが多用するフェイク*2が連発。このテイストでフェイク使わないのは嘘と思うが、すごい使ってる(小学生並の感想

特にラスサビは芸術。言葉にならない「やばっ!!」とか「もう」という感情を表し、強調するためのフェイクだと思うけど、表現者藤井風がこういうところで出てくる。

あと、サビのメロディのピアノで終わるアウトロもおしゃれ。なのにこの綺麗な旋律の上でYABA!YABA!連呼してんの冷静に考えると相当ウケル。変な話、綺麗すぎる川には魚は住めないので、こういう抜きを作ってくるのも藤井風スタイル。

 

05. 燃えよ

アルバムも中盤にさしかかろうという曲。この曲は紅白のサプライズ演奏も記憶に新しいが、個人的にも去年一番聴いた曲でもあるのでかなり思い入れある一曲。

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改めてアルバム通して聴いて、「SERVE」するために必要なメッセージが込められているなと感じた。

燃えよ あの空に燃えよ 明日なんか来ると思わずに燃えよ

クールなフリ もうええよ 強がりも もうええよ

汗かいてもええよ 恥かいてもええよ

誰かを愛すだけではなく、何かを成すために「燃え」なければならないと強く背中を押してもらえる、そんな人生の応援歌。頑張れなんて一言も言わなくていいのよ。


06. ガーデン

さて、『ガーデン』。風ハミングから温かく始まるこの楽曲。とにかく暖かなガーデンの空気が随所に散らばっている。とりあえず今作、一番好き。断トツで好き。何が好きってメロディと展開が好き。

本人が過去ラジオにて「歌詞はメロディに呼ばれる言葉を探せ」と発言していたが、この『ガーデン』の歌詞は全てメロディに導かれて置かれているような気さえしてくる。

まず分かりやすいところで、歌詞が母音の”e”で終わっている。

雲は夏を帯びて

私は目を閉じて

綺麗な時間だけ

言葉が作るリズムの大切さがわかるが、いかにメロディに「しっくり」くるかでワードチョイスしてそう。

そして後半の展開が狂おしいほど好き。具体的には2:33から。

これ、実はゴスペルのアレンジ手法で、最後に聖歌隊がコーラスに加わって、かつキーが×n回上がって転調していく。ドラマティックさとテンションの上がり方が半端じゃなくなる分歌いこなすのが単純にキツくなる手法である。本場アメリカではこっからあと2、3回は転調していく。『ガーデン』においてはボーカルシンセ(プリズマイザー?)がたっぷりかかった重厚なコーラスになってて、サウンドメイクが現代っぽいなーと素直に感心してしまった。ヤッフルヤッフル。

この楽曲は恋の歌にもとれるし、神様に恋焦がれる曲ともとれる内容で自分のモードに合わせて聴ける曲。

 

07. damn

ベース曲。イントロから低音が前にグッと出てて、そこを起点に曲が展開していく。前作でいう『さよならべいべ』的な立ち位置の楽曲で、今からこの曲で盛り上がるライブの絵が浮かぶよね。

しかし!!この曲、ノリノリに見えて歌詞はかなり内省的。もがいてもがいて泳ぐ風氏がみてとれる。

全て流すつもりだったのにどうした?

何もかも捨ててくと決めてどうした?

明日なんか来ると思わずにどうした?

こちら、『帰ろう』の「ああ 全て流して帰ろう」とか『きらり』の「何もかも 捨ててくよ*3」とか『燃えよ』の「明日なんか来ると思わずに燃えよ」がおそらく元ネタなんだが、この「言うは易く行うは難し」的な壁に本人ブチ当たっていると思われる。こんなにも達観しているように見えるがまだ20代も前半の彼。「こんな事歌っとんのにワシ全然やな・・・」とそりゃあ思うでしょうよ。そういう意味で曲名の『damn』は便利な言葉で色々な意味があるが、「チクショウ」的なニュアンスも相当濃いように思える。"hey little father won’t u come with me"と神?に救いを求める部分も垣間見えるしな。

ただ、まだ解けてない謎が一人称「ワシ」じゃなくて「おれ」なのよね。最近の口調を反映してただ東京に染まっていってるだけなのか?それはそれで寂しいんだが。

 

08. ロンリーラプソディ

この曲も相当好き。このイントロは何かのサンプリングなんかしら?クリック音からの歌謡曲モードで、とにかく「哀愁」の2文字が音色からも歌詞からも伝わってくる。

まずタイトル。『ボヘミアン・ラプソディ』なんかに代表される、この「ラプソディ」の意味は「狂詩曲」。「狂詩曲」とは「自由奔放な形式で民族的または叙事的な内容を表現した楽曲*4」との事で「孤独」をテーマに風氏の胸の内が歌われている。自由奔放というのに相応しく、歌詞は相当入り組んでて、前半と後半で内容が逆転したりしてクラクラしてくる。

前半:

君は誰なの 僕は僕だよ

後半:

君は誰なの 僕は君だよ

正直こちらはまだよくわかんないので解析中。誰か良い考察あったら教えてほすぃ。

あと、LASAは、『やば。』にしろ『ガーデン』にしろこの曲にしろアウトロにも相当こだわっていて好き。

 

09. それでは、

「藤井風」という映画を撮るなら確実にエンディングに挿入される曲。僕の最高に安眠できるプレイリストが更新されるレベルで気持ちいい。まず、この「あたたかな」という第一声で昇天できる。もうね、実質エンヤです。藤井エンヤ。

さて、『それでは、』において、実は2つの「事件」が起きている。

事件1.ビートレス&オーケストラ

既存曲で彼の楽曲には相当に珍しくドラムもベースも無い。一方でヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスというClassicalな弦楽器を贅沢に取り入れた新境地になっている。

特に2:09の「春が来る」というフレーズ後のセクションは絶品of絶品。目を瞑ればそこに春の風が駆け巡るような気すらしてくる。クレジット見てみるとこの曲のために多くの演奏者がフィーチャーされている。豊かな時間とはこの事を言うんだと思う。

事件2.ビブラート

そんな事?と思うかもしれんが、個人的には結構な事件。R&Bの最もメジャー且つ重要な歌唱法に「ビブラート」がある。

ビブラート(伊: vibrato)とは、演奏・歌唱において音を伸ばすとき、その音の見かけの音高を保ちながら、その音の特に高さを揺らすことである。(引用元

この話をすると長いので大分端折るが、ロングトーンを真っ直ぐ伸ばして歌うのとビブラートをかけて歌うのとでは、聴き心地の変化、喉への負担等かなり差がでる

風氏はライブ/音源どちらでもこのビブラートをおそらくあえて使わずに、前述のフェイクを多用していた。僕はビブラートが得意でフェイクが苦手なので風スゲエ!と思っていたのだが、ここにきて新しい「引き出し」をあけやがった。具体的には2:52からのロングトーンね。

また表現の幅が一つ広がった瞬間であるが、きっと曲によってしっくりくる表現方法を選ぶんだろうな~また楽しみが増えた。

 

あと、この曲の白眉はラストの

会いに行く幾重の闇を超えて微笑みを湛えて

それでは、お元気で

の箇所。歌詞的には『帰ろう』に繋がる気がしていて、自分の中でまだ考察中。歌も出だしのオクターブ上でファルセットで歌っていて、ここにも深い意味付けを考えてしまう。いつか考えをまとめたい。

10. “青春病”

個人的に『優しさ』と双璧で完成度が高いと思ってるこの曲、実はリリース当初あまりピンときてなかった。

僕は同時リリースの「へでもねーよ」派を宣言し、つらつら書いていたんだが、特にライブでの『青春病』のあまりの良さに撃ち抜かれてしまって、歌詞の深さも含めてやっと自分の腑に落ちた感じだ。そんくらい自分にとっては大きすぎて呑み込めなかった存在。青春を賛美する曲は多い。青春サイコー!眩しくってキラキラ。それも良いだろう。

でも、青春は眩しく尊い、故に脱却し「サヨナラ」を告げなければならないというこの曲は一段も二段も深いし、逆説的に青春の眩しさが際立っているように感じる。

切れど切れど纏わりつく泥の渦に生きてるこの体は先も見えぬ熱を持て余してる

過去から何っ度も書いて恐縮だがこの歌詞が自分に刺さりすぎて怖い。自分の少年期をこんなにも適切に表現されるとは・・・こんな表現者をアーティストと言わずに何というって感じよ、ほんと。

ちな、LASAでは“青春病”と若干表記が変えられている。

 

11. 旅路                                                                                               

LASAの〆。最近のライブもずっとこの曲でラストを迎える、終わりだけど始まりの曲。今作のシングルカットでは多分一番好き。

初めて「色々あるけど」という歌詞を読んだ時、そらそうよとちょっと笑ってしまったが、曲が体に馴染み切った今、この「色々ある」がめちゃめちゃ重みを増している。

出会いと別れは表裏一体で、みんな色々あるけどこの僕たちの「旅路」は続いていくというメッセージ。ドラマ「にじいろカルテ」よろしく、これだけにじいろでカラフルなアルバムの最後に配置されていると、長いドラマのエンディングのような気さえしてくるね。これしかないというラスト。

 

いかがだったろうか

色々書いたけど、総じて藤井風というアーティストが正に成長期を迎えている事がわかったアルバムだった。「僕らの時代は藤井風がいた」って後から自慢できる、素晴らしい一枚。これってすごい幸せなことね。

焦らずゆっくりと健康に気を付けて、これからも末永くやば。な楽曲達をリリースして欲しいと心から願ってる。

 

それでは、また。

LOVE ALL SERVE ALL (初回盤)(2枚組)

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*1:権利の関係でアーカイブからは削除。残念すぎるが。

*2:本来の音程を変化させて歌うテクニックのこと。ブラックミュージックにおいては必須of必須テク。

*3:コメントにて風民さんにご示唆いただきました、感謝!

*4:Wikiより。ボヘミアンラプソディーもそんな意味なのか・・・初めて知った

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