ヤーマンヤーマン。
先日書いたこちらのエントリの続きを書いていく。
【ディレクター・OSRIN(PERIMETRON) コメント】
子供の頃に憧れたヒーローにはなれなかったけど 今もいい夢見れてんなとも思ったんでこのような希望がある内容にしました。 シュウ(PERIMETRONのプロデューサー)とつけた細かいストーリーがあるんで、楽しんでもらえたら幸いっす。
「解説勢」として、このMVは読み解いてやるぜという気にさせられた。再生と停止を繰り返してじっくり味わうと色々気づくことがあったのでその辺書いていく。
MVの位置付け
まず、今回もクリエイターズチーム、"PERIMETRON"が産み出したMV。
今までのヌーのみなさんの楽曲MVをざっくり種類分けするとおおよそ3種類に分かれる。
1. バンドの演奏(アクト)を主役に切り取ったMV
例:Flash!!!、白日
2. 物語性を重視したMV
例:The hole、It's a small world、Prayer X
3. 物語の中にバンドの演奏が挿入されたMV(1と2の中間)
例:Vinyl、Slumberland、Tokyo Rendez-Vous
MVなんて、ひと昔前はアーティストが出て演奏してる風でオッケーだったんすよ。何も考えずに自分の好きなアーティストがコッチ見て演奏してくれてる数分間って普通に尊い時間だしな。一番再生数稼げるし。でもこのPERIMETRONというチームは、色々飽きさせないように毎回手を変え品を変えてKing Gnu(だけじゃないけど)を表現しようとしてる。
で、今回の飛行艇MVはかなり2に寄った3って印象。つまり、はっきりした伝えたいメッセージのある物語の中でバンドが出てきて、演奏もする。MVにおける欲張りセット。ピザのハーフ&ハーフみたいなモン。でも今回のMVがそれまでと一線を画すのには理由がある。ここは後に説明する。
MVの詳細を見ていく
ストーリーライン
いやね、正味50回以上見ましたよ、MV。マジで目がドライアイ気味だけど、後悔は無い。そうすると冒頭のOSRIN監督の言うように、かなり細かいストーリーが入り組んでる事に気づく。
まず、ざっくりプロットとしては少年が螺旋階段を上り、様々な人々(バンドメンバー含む)に出会うことで成長し、ヒーローになってていくというお話。
ラジオ番組、PERIMETRON HUBでプロデューサーの佐々木集氏は、「少年は一般大衆を象徴するメタファー」として、描いていると言っていた。勝手に付け加えるのならば、螺旋階段は「人生」、出会う人々は「幸せあるいは困難」のメタファーとして描かれていると思う。
登場人物
流し見しないで、じーっくり見て欲しい。あえてキャラというが、実は同じキャラクターが複数回出てきて、しかも互いに干渉してる。
・恋人ペアA(仲良さげ)
・恋人ペアB(喧嘩してる)←重要キャラ
・ホームレス
・ホームレス狩り
・ヤーさん二人
・ストリートミュージシャンとその取り巻き
・警察
・バンドメンバー(King Gnu)
特に恋人ペアBとヤーさんは事件性がある何かしらを引き起こしてるっぽくて、クスリか、金の使い込みか、闇営業か、詳細はわからんが互いにクロスし男は警察に捕まる。
ストリートミュージシャンも最初は二人組なのに、髪染めてる方が取り巻きを食ってるし、それが原因で解散してて、相方はファンを減らしつつも一人で活動を続けてる。
そんな社会の闇を少年は力強く、時にへたり込みつつも突き進んでいく。
個人的に好きなのは、1:25からの少年がヘッドホンをしてVo/Gt常田の「ギタープレイ見る」っていう描写を挟んでるところだ。基本ドローンで撮影してるが、ここは一旦固定カメラでデカめに切り取ってある。これがきっかけで、少年は後にゴミからギターを拾いギターヒーローを志すのだ。しかもここで拾い上げるヘッドホンはホームレス狩りになぜか奪われていたホームレス男性のヘッドホンなのだ。
常田のプレイに勇気づけられた少年はそれまで歩いたり逃げるだけだった1番から、キャラに干渉しだす。よくよく見ると喧嘩を止めたり、寄り添ったりしてる。よー繋がってるわ。マジで。
そして2:28からの曲のブリッジ部分、少年とVo.井口しか登場しない。
大雨降らせ 大地震わせ 過去を祝え 明日を担え 命揺らせ 命揺らせ
まず、一度暗転させてることから、意図的にそれまでと流れを区切ってる。この部分はおそらく少年の修行パートであり、成長パート 。ワンピでいう2years。少年=ルフィ、井口=レイリー!?これから井口さんの事「冥王」って呼ばせていただきます。
少年はギターをひたすら弾いてる。繰り返し、立って弾くあるいは座って弾いて、陰の努力の必要性を暗示してる。地味ーな努力が一番大事。
で、その後挫折して座り込むとか茫然と立ちすくむ、っていう描写を入れてるのがすげーリアル。「人生うまくいくことばっかじゃねーよな」って言われてる気がする。これってまさに夢を叶えるのに誰しも通る必要なプロセス。
そして落ち込んだ少年が見たものは・・・King Gnuの激しい演奏でした、と。
きっちり、練習に明け暮れた少年が挫折して凹んだ先に、ヌーに出会う(しかもラスト大サビで!)っていう流れにしてあるのがなんとも素晴らしい。登場キャラみんながオーディエンスとなって謎の大団円になるんだが、このプロセスを経て少年はさらに成長する。
重要なのは、King Gnuの演奏がこの少年の成長の鍵になっていて、MVにとって不可欠な作りになっている、ということ。冷静に考えると世の中のMVってストーリーの中で、なんで演奏してんだよって、突っ込めちゃうと思うんすよ。野暮だからみんな言わないだけで。でもこのMVに関しては演奏はストーリー上、必然。この必然性こそが既存のMVとは一線を画す点と読み解きやした。もしそうだとしたらよく考えて作られてるわ、ホント。泥臭くも夢と希望に満ちた素敵なお話。
※2020年1月23日追記
有難いコメントをいただきまして、もう一度見直して追記いたしやす。
主役の子供は「恋人(夫婦)Bの子供」説が濃厚。そうなると父親は獄中で母親は蒸発・・・その中でKing Gnuの音楽を通して生きる意味を見つめなおし、奮い立つという涙無しでは語れないバックストーリーが展開される。Oh ・・・Tempalayの『そなちね』MVでもそうだったが、PERIMETRON作品で描かれる「子供」達の境遇が辛すぎる。鬼!!悪魔!!
飛行艇とそなちねの2作品に共通するテーマとしては『実存性を取り戻す』ということがあるだろう。自分の存在を問い直し、主体性を獲得するまでをどう作品として見せるかという事を重要テーマにしてクリエイトしている。
この「自分が自分である事を誇る」までの道のりを描くストーリーが映画とかも含めて僕は大好物なので今回非常に心を動かされたんだと思う。ありがてぇありがてぇ。
ヒーロー見参
で、今作のオマージュ先であると思われるのが松本大洋の超名作スポーツ漫画、ピンポンだ。もっと言うと、窪塚主演の映画版の方のピンポン。これはもう見てもらった方がはええ。
心の中で三回唱え、ヒーロー見参、ヒーロー見参、ヒーロー見参……そーすりゃオイラがやってくる!
作中一番好きなセリフ!アガル!!
このお面+子供の組み合わせはまぁそりゃそうだよね。この「ヒーロー」という概念はピンポンにおいて最も重要で、主人公ペコが挫折を繰り返しながらも努力と根性と才能でヒーローになっていく様を描いてる。このストーリーラインはMVと重なる部分がある。で、何よりの証拠がこちら・・・
クレジットでHEROって書いとる・・・!!きっと脚本書いた二人がピンポンファンでリスペクトを込めてるに違いないと見てるんだけどどうでしょうか。
クレジット
あとスッゲー細かいけど、クレジットが少しでも目立つように、段落毎に表示されるように編集してある。ドラクエユアストーリーのクレジット問題なんかもあったけど、そこはクリエイター・関わった全てのスタッフにリスペクトを込めた「クレジット」にもグッときてしまう。細部(ディティール)に魂は宿る。
いかがだったろうか
僕の妄想垂れ流しを3千字も読んでくれてありがと。ドローンを使った撮影方法とか、ファッションとかジャケットデザインとか、語るべきポイントは沢山あるので各々このコンテンツを味わい尽くして欲しい。僕はしばらく見たくないです
MVのコメント欄なんかを見ててもだいぶ英字コメが増えてきた。ヲイヲイ、ついに世界に進出か?日本政府は早く、King Gnuを世界に輸出しろ、そして五輪を常田大希に任せろ。ってか普通にこの曲ならW杯とか五輪とかのデカイスポーツイベントのアンセムとして申し分ないと思うんだが。
地球規模に広がるKing Gnu、そしてPERIMETRONの活躍を見逃すな!というところで、今回は〆たい。アディオス。