2019年に出たアルバムで一番聴いてる、何度聴いてもいっこうに飽きが来ない大名盤、「21世紀より愛を込めて」の収録曲「そなちね」について書いていく。全人類マスト。文科省は音楽と道徳の時間にTempalayを義務教育にしろ。
少しだけTempalayについて
単体で扱うのは初めてなので少しだけ彼らについて触れたい。ちなみにテンパレイと読む。
Tempalay:アメリカの大型フェスSXSWを含む全米ツアーや中国・台湾・韓国でアジアツアーを行う等、自由奔放にシーンを行き来する新世代バンド”Tempalay”。17年夏にGAPとのコラボ曲「革命前夜」を収録した2ndアルバム『from JAPAN 2』をリリース。18年夏、AAAMYYY(Cho&Syn)が正式メンバーに加わり、新体制後にミニアルバム「なんて素晴らしき世界」をリリースし各方面から高い評価を得る。西海岸周辺の海外インディーシーンを感じさせる新世代脱力系サウンドに中毒者が続出中!
引用・一部抜粋:https://tempalay.jp/biography
僕は「革命前夜」から聴き始めたクチなので、大して古参でもないんだけど、この曲を初めて聴いた時、こんなにも脳がとろける音を鳴らすバンドが出たのかとしばらく激聴したのを覚えている。
1.不思議なメロディやな・・・
2.不思議な歌詞やな・・・
3.変な展開やな・・・
4.もう一回聴こ・・・(以下ループ)
別にBPMが速い訳じゃないのに、激しく歌ってる訳じゃないのになぜか高揚してしまうのはまさにサイケデリック。合法麻薬。
で、最新アルバム「21世紀より愛を込めて」が今年の6月にリリースされた訳なんだけど、とにかくこのアルバムが好きで好きで。もう毎日このアルバムを聴きながら寝るレベル。僕は歌を歌うので、基本的には自分が歌ってて気持ち良かったり、自分がなぜ好きなのかわかりやすいものを好む。秦さんとかその典型。だけど、このアルバムに関しては全く理解不能。自分の理解できないモノに惹かれる感覚を思い出させてくれる。
あえてお気に入りを挙げるとすればプレリュードの1.21世紀より愛を込めて、意味不明すぎるビートが特徴の4.人造インゲン、Sy(シンセ). AAAMYYYのウィスパーが絶妙にエロい6.脱衣麻雀、ちゅどーん!な9.SONIC WAVE、美しいメロディで平成を〆た12.おつかれ、平成。
聴いた事ない人はぜひご一聴の程よろしゅう。ちなみに朝聴くもんじゃ無いぞ、夜だ夜。
さて、本題
そしてもはや今年のフェイバリットになってるこの「そなちね」は別次元。
まずそもそものこの曲、北野映画の"SONATINE"のオマージュとのこと。
93年の映画なんだけど、未聴だったのでこれを機に一度見てみた。さすが初期最高傑作と言われるだけあって面白かった。
所謂社会からのはみ出しモン達が沖縄の地で束の間の夏休みを思い切り満喫するオフビートな笑いを主軸に、最終的には一人また一人と死へと突き進んでいくお話。
この曲は映画体験によって考えさせられた「死」と同メンバーDr. 藤本の娘キキちゃんの「誕生」をきっかけに曲を作ってるとのこと。文字通り死生観が反映された歌詞と空に飛んで行けそうなこの浮遊感な。浄化されて昇天しちゃいそうなメロディといい、声といい歌詞に実によくマッチしてる。
1番のパンチラインは、まぁサビだと思う。
ソナチネ 産まれたての愛が
育ち目を開き 声放ち
いつかは消えてしまうらしいが
そなたは美しい 光あれ
1行目と2行目は"oaie"で綺麗に踏んで、4行中3行「そな」を入れ込んでる。且つ、
後半は「なち」も入れつつ"ai"で踏み通してる。さらに音楽形式としてのソナチネの元である「ソナタ」も同音異義語として挿入。メロディ・演奏・声(コーラスワーク込み)・そしてライミングが相まって最高に気持ちいいところ。もう死ねる。いや、生き返れる。輪廻ぐるぐるですよ、神。
で、この歌詞の次の展開が、
拝啓 神さま聞いてくれ 疲れ果てたわけです おさらばといこうぜ
で、生から死に展開が移ってる。新しい生命の誕生ってのは当然それだけで尊いんだけど、環境によっては祝福されなかった命というのも存在してる。北野武演じる映画の主人公「村川」は親殺しを犯すほどの「されてない側」の人間。「なんかもう、疲れたよ」という彼の重要なセリフを入れ込んだこの歌詞が、映画の筋そのまんま進行していく。
MV
MVについて。もう一回貼る。
一見した救われなさ・辛さから賛否両論あるMVはKing GnuのMVを手がけるPERIMETRON制作。なんか考えがうまくまとまらなかったので色々気になった点を雑多にあげてく。
北野映画との関連性
SONATINEは当然として、これに菊次郎の夏を混ぜたような登場人物とストーリー構成。
映画との共通点やオマージュを挙げていくと、
・設定が毒親持ち・
・色使いが海の青など随所にブルーが映えている。
・映画の村川が砂浜に弾丸を捨てる描写とMVのおじさんが捨てる描写の一致。服装もほぼ同一してることから明白なオマージュ。
・ボコボコにされるチンピラ描写。
・拳銃自殺というモチーフ。ただ、MVの少年は死んでいないと思われる。だって煙も血も出てないし。
途中のアニメーション描写
ここは完全に妄想。PERIMETRONの皆さんが意識した構成として実写の途中でアニメーションが混じる部分。この意味というのが実はめっちゃ大事。MVの中では銃を手にし、死んで自由になる少年の思いが宇宙に飛んでいくという過程が美しく描写されてる。物語上の重要な点だけど、これを実写で弾丸に乗って天国への階段を登ることを表現しようとするとなんだかアホらしく、チープになってしまう。けどアニメーションにすることで、現実と脳内の境界線をはっきりさせ、見ている人にスッと疑似体験させてくれるのよ。ココがポイント。
加えて、この表現が世界のMVトレンドになっているという点も記述したい。こちら、アトロクで知った世界のHIPHOPトレンドを牽引するリリカルレモネードでも「実写途中にアニメーション」という描写が頻繁に使われている。嗅覚鋭い彼らのことだからきっとこの辺りの流れも意識してるんじゃないかと思われる。
つまり物語の意味としても大事だし、描写方法としても大事だし、世界のトレンドをしっかりキャッチしてるPERIMETRONのアンテナと実行力の三重の意味で大事ということが言いたいわけです。
タイトル、「そなちね 」
「ソナチネ」って音楽用語であることはわかるけど、そもそもなんやねん!っていう疑問に立ち返り調べた。ここがわかりやすかった。
典型的なソナタの構造は、主題提示部、展開部、主題再現部の3つの構成部分で作曲されています。〜中略〜
一方ソナチネとは「小さなソナタ」のことであり、ソナタ形式の3つの構成部分が短く簡略された形で出来上がっています。演奏時間も短く、特に展開部の複雑さが省かれていて、初心者が弾きやすいようになっています。
通常の人生を「ソナタ」だとするならば、提示部は「出生」、展開部は「育ち」、再現部は「大人になること」だと当てはめられる。しかしタイトルは不完全な「ソナタ」=「ソナチネ」である。映画の主人公北原とMVの少年をこの考え方に照らすと、提示部である「出生」は同じだが、展開部である「育ち」が親に恵まれず、欠けている。この意味でタイトルが「ソナタ」ではなく「ソナチネ」という意味として回収される。
余談だが、曲タイトルが平仮名になってるのはオマージュ色を際立たせることと、新しく生まれた命の幼さ・可愛さを「そなちね 」と表現してると思う。そうだとしたらより素敵やん?
よくわからないところ
僕が思うこのMVのテーマは「生の実感を得る」ということだ。小学生の頃合いでの親の重要性なんて言及するまでもない。家庭なんて最重要であって全てだ。その家庭が、がらんどうで孤独な少年は生きるとは何かについて自問自答する。そして自分が生きている事を確かめる為に導き出す答えが「死に近くこと」って・・・そりゃ悲しすぎるじゃありゃあせんか。少年は死と生の間を揺蕩い、宇宙へ行き天国への階段を昇り、果たして救われたのか、その答えはわからない。わからないけど、だからこそ「研究」して試してるんだよな・・・
ちなみに「銃と自由が掛かってる」ことは気がつくと思うんだけど、「自由研究」という一般的な表現の研究テーマが「自由」。そしてその研究方法が「銃研究」で実際に銃を工作する、っていう多重的な構造にしているのが今回の深イイポイント。
さて、この銃によって自由を手にする=死に近くことで生を実感するまではわかるんだが、なぜ主人公が死ぬ(疑似)ことによって皆が幸せを手に入れるんだろう?いじめられっ子はいなくなり、夫婦仲が修復され、はみ出し者のおじさんにも子供が生まれる。
色々考えを巡らせたが、結論が出なかった。おそらくIf世界、理想の世界としてのパラレルワールドを描いてるんだと思うんだが・・・誰か考えがある方は教えてくださいまし。
小ネタ
・全国子供自由研究会とかいう架空の組織の会長の名前が「小原綾斗」。
・人さらい役が綾斗説。下半身、というかケツがそれっぽい。
・どうしようのMV(51秒〜)でも拳銃自殺の描写がある。好き過ぎだろ、ソナチネ。
いかがだったろうか
なんだかよく纏まってもいないが、楽曲への愛だけは伝われば嬉しい。
世界中がこの曲を聴いて、愛に満ち溢れ、銃で自由を手にするなんて愚行がなくなれば良いのにね。すっげー逆説的だけど。
それではこの辺でアディオス。