ハイ、それではみなさん目を閉じてください。
そこ、読めないじゃねーかなんて突っ込みは不要です。心の目を閉じるのです。
では聞きます。
普段HIPHOPは聴かないけど、藤井風楽曲だから『Workin' Hard』聴いてみたよという人は手を上げなさい?
・・・
・・・
ありがとう。
勝手な予想だがぶっちゃけ8割方は手を上げるんじゃないかな。
今までも攻めた楽曲はあったが今回はいっそう攻めとる。
ブラックミュージックの要素を随所に出した楽曲も多かったとはいえ、風史上一番HIPHOPしているこの新曲『Workin' Hard』について色々と語っていきたい。
僕自身、HIPHOPを聴いて育ってきた人間として、「できるだけ分かりやすく」を心掛け、ビギナーでも新曲を深く楽しめるように丁寧に説明していこうと思う。
何しろ10ヶ月ぶりの新曲、最高に楽しみ尽くさないといかんでしょ!
この記事をポッドキャストで聴く(よね?)→
用語集
一瞬だけ言葉の意味に付き合って欲しい。
そもそもHIPHOPとRAPって違うの?人も多いはずなので解説。
HIPHOP(ヒップホップ)とは狭義で言うところの音楽のイチジャンルを指す*1。
RAP(ラップ)はHIPHOPでよく用いられる歌唱法のこと。つまり、今回は風さんがHIPHOPというジャンルでRAPという歌唱法を披露してると言い換えると状況がわかりやすいかもしれない。ここ、後でテストにでまーす!!
その他の頻出単語
トラック:色んな意味があるがHIPHOP的にはボーカルが乗っていないバック音源のこと。今作はDJ Dahiプロデュース。
ビート:トラックと似た意味で持ち入れるが、特にドラムやベース音を指す。
フロウ:ラップする時の歌い方のこと。人によってダミ声を使ったり語り掛けるように歌ったり千差万別。ラップを構成する超重要項目。
ライム:韻のこと。楽曲のリズムや聴き心地に大きく影響する。
風とHIPHOP
藤井風楽曲を3年に渡って聴き続けてきたが、おそらく意図的にジャンルを横断して楽曲を作り続けている。と、同時にどの楽曲もそれぞれのジャンルの核となる要素を丁寧に取り込みつつ、風流のメロディや歌詞で包んだポップスにも仕上げている。実はHIPHOP自体はかなりお好みのようでAwich姐さんの超DOPEな『洗脳』と言う楽曲に本人が「流石に伝説」とコメントしてたりする。(こっちのセリフなんだが)
そんなHIPHOPラバーでもある風氏楽曲で一番魂を感じた楽曲は『もうええわ』。
本人による解説*2においても日本の Classic*3にインスピレーションを受けて作ったことが語られている。曲調はもちろんのこと、気だるい歌い方も解脱を歌ったリリック*4含めてめちゃリアルなHIPHOPだと思う。
実は本人も『もうええわ』で度々RAPを披露している。こちら再生したらすぐその箇所に飛べるのでぜひ。
ここで大事なことが何かと言うとRAPとSINGどちらも入り混じった歌唱法というところ。ここが『Workin' Hard』まで一本繋がってる。
超DOPEなトラックとラップ
重めのピアノ印象的すぎるこの楽曲。風曲として初めてYaffleプロデュースを離れ、タッグを組んだのはなんとDJ Dahi!
細かいことは省くがあのDr. Dre御大*5が惚れ込んだ男だということがまず大事。あのドレーが・・・ってレベル。そういえばドレー曲にはピアノが印象的な楽曲が多いので何かしら意識しているのかもしれないね。
まぁ、この記事では歴史的にも超スゴイ人が惚れ込んだDahiさんとタッグを組んでるってことが伝わればOK。
で、ラッパーが歌うとダサいという概念を過去のものにしたDrakeという世界で一番売れてるのに日本での知名度が今ひとつなアーティストがいるんですが、風さんは今作明らかにDrake以降のHIPHOP的歌唱を披露している。つまり、メロディを強調したり、時にはあえてオールドスクールにラップしたりと縦横無尽に様々な歌い方を魅せているということなんだけど、乗っかっているのは90’sの匂いがする重めなビートでとても斬新。
しかもピアノと藤井風という際立った共通項をこのトラックにブチ込んできたDahi氏には脱帽する他ない。
後半ベースラインが動いて「めっちゃ頑張るぅわぁ」のメロディが変わるとこととか、あえてサビを盛り上げないと思いつつビートだけは足されてるみたいな渋すぎて伝わらない系のエッセンスが凝縮されてる。出だしのグロウル*6亜種みたいな超低音「いぇぇぇぇ」とかね。うま過ぎて何度でも食べられると思ってたカレーにスパイス実は1000種類くらいスパイスが隠されてた感じ、伝われ。
Dahi氏についてはこちらの記事に詳細が書いてあるのでぜひ。特に「アーティストの中に眠っている才能を引き出すこと、それが自分の役割だと思っている」という言葉はとても信頼に足るなと思えるよね。まーだ風さんに眠ってる引き出しあんのかよとも思う。
なぜ方言で歌っているのか ~リズムとリアル~
みんなそろそろ風方言、恋しくなってたんちゃうんー?僕がその一人っちゃけどね。
端的に、2つ理由があると思っていて、まずは標準語と方言では言葉のスピード感が違う。例えば「ワシかて負けんよーにな」の「ワシ」・「負けん」という言葉の勢いとニュアンスに大きく影響を与えてる。「僕だって負けないようにね」だったら上手くビートにハマらないのは明らかよね。しかも岡山弁の語尾「な」が英語的に「Nahh」のように発音され、ここでもまたビート感を生んでいる。*7
全ては偶然じゃなく必然の妙。
ビートに適合する言葉を選んだら自然と方言になったという言い方が適切かもしれんが、とにかくこのいなたい渋いビートに軽やかな方言フロウがハマってる。
2つ目の理由は心情をより自分事として表現したかったからかな?と考えてる。
方言全開で歌った『さよならべいべ』では上京する自分の状況を岡山弁で歌うことでよりリアルに表現している、というように方言で歌う楽曲はより「自分事」感が出る。
だから『Workin’ Hard』においては「ほんまよーやるわ」といった丸出しの言葉は心情吐露とでも言うべき心の声が漏れ出てきているように感じてしまう。
HIPHOPは「リアル」か「フェイク」か、といったことを特に重視した音楽なのでジャンル的な意味でもこの方言で歌うという点で正しいスタンス。最高すぎる。ひれ伏したい。かしづきたい。
この「リズム」と「リアル」こそが今回の肝ですぜ。
歌詞について
考察も何もない。今作のマイベストフレーズは「結果なんぞかったりぃわ」です。
そうです、結果が大事 or 過程が大事論争が2000年の時を経てついに結論に至りました。っしゃ!!
そんな楽曲を明確に勝敗が着くバスケットのW杯のタイアップソングとして打ち出したことに大きな意味があると思っとるんですが、過去にも国を挙げて競う国家的イベントを記録した映画『東京2020オリンピックSIDE:A / SIDE:B』のテーマソングとして『The sun and the moon』を書き下ろした際にも
You win, and I lose
What's the difference?
There's no difference
(あなたは勝ち、私は負けた
何が違うというの?何も違わない)
というメッセージを発したりしているので、この点かなり意図的な気がしている。なのでよくあるがんばれニッポン的な応援ソングではなく、自分とどう向き合うのか、に焦点を置いている歌なのは間違いないと思う。
だからある意味でめっちゃ厳しい曲でもあって、楽曲を聴くたびに「僕たちはどう生きてるのかを」突きつけてくるという側面だってあるのよね。
正直ココが渋すぎてすっごい不安というか、楽曲もメッセージも弾けるようなPOPさ、わかりやすさが無いのであらゆる意味で一般ウケよりも、玄人好みな受け取られ方しないかなーというね。まぁ僕が心配しても仕方ねーんですけども。
なぎ倒すは か弱い己自身さ*8
敵も味方もほんまはねぇから
ここに全てが詰まってると思う。
英語詞
既に長すぎてビギナーに読ませる文章じゃないのは重々承知しているが、フジカゼは語るべき箇所が毎回2万個くらいあるのでしゃーないのよ。笑って許して。読んで。最後に英語詞に触れる。
今作明らかに英語歌詞の比重が大半を占めた楽曲になってる。これは、「方言以外でHIPHOPによりハマる言語をmixした」、「世界に届けるよう英語詞を多用した」、「アメリカでのレコーディングで自然に英語になった」
とかとか複合的な理由があるんだろうが、日本語詞にある巧みで微細なニュアンスをどう表現してるのかまだ解釈が追いついてないというか掴み切れていない。
一番好きなのは”Touch the sky”というフレーズ。
無論バスケットW杯とコラボしてるからジャンプして高く飛び上がるというイメージに合っているし、トーナメント的に頂点に届くっていう意味にも繋がる。
で、過去の楽曲でいうとskyという単語が出てきたの覚えてますか?そう、『golden hour』!ここは風文学的に解釈すると一緒に空へというのは高いところに辿り着く=理想の自分に辿り着くとも解釈できる。 しかも実兄の藤井空さんの名前とも一致してて単語自体に馴染が深いのかな~とかも妄想できる。
いったいこれ何重にかかってるん?
極めつけはこの楽曲の一番ハイライトでキーが特に高くテクニカルな部分がskyと一致してたりしてね。何重にも張られた網にもう溜息しか出ない。
いかがだったろうか
配信と同時に公開されたMVは Workin’ Hardという熟語的な意味合いではなく、「仕事」を頑張る、それもスポットライトが当たりにくい、エッセンシャルな仕事に携わる人々に光を当てる人間賛歌とも言える内容になっていた。叙述トリック!!
前作から約10か月ぶりにリリースされた新曲を噛みしめるように、そして骨の髄まで楽しみつくしたい。
それでは、お元気で。