僕はレベル40

心が動いたことをかいていく

藤井風のカバーアルバム、『HELP EVER HURT COVER』タイトル考察&全曲プチレビュー

今日の 悲しみを乗せて 明日の 喜びを運んで
全部 風が連れてゆく 或るべき場所へ

風よ/藤井風 

藤井風の音楽は「祈り」の音楽である。

HELP EVER HURT NEVER(以下HEHN)リリース1周年に際してあらためてそんな事を思った。 

仕事で辛い事が合った時、人間関係がうまくいかない時、とにかく自分が不幸だと感じてしまう時・・・人間だれしもが時にバッドに入ってしまうものだけど、「心の持ちよう」で変わる、事もある。

彼の音楽に救われている人が多い一つの理由に、彼の祈りにも似た音楽が、直接心に届き、作用してくる不思議な力があるからなんだと思う。
多分本人は人を救ってやろうだなんて1ミリも思ってなくって、「ワシの音楽で皆がちょっとでも元気になるならいつでもワシ歌うわぁ」くらいのテンションな気がする。きっとそうに違いない。

彼の奏でるピアノの響き、温かい声、端正な顔立ちが崩れる優しい笑顔、キレのある所作、何度噛んでも味が出てくる歌詞。そのどれもがネガティブエネルギーをシュワシュワと溶かし、「あ、なんか元気でたかも」とヒーリングしてくれる。

祈る どうか導いて 願う どうぞ連れて行って
握る 手は離さないで 胸はって 飛んで行かせて

爽やかで優しい風が心に吹いたらどこにでも飛んでゆける、きっと。

 

 

・・・とか冒頭から浸ってますけどmore。

HEHNリリース1周年とHELP EVER HURT COVER(以下、HEHC)の発売の記念という事で色々と書いていく。

カバー集をリリースする意義

言うまでも無く藤井風が影響を受けてきたアーティストへの愛とリスペクトを込めてピアノで弾き語ったカバー集がこのHEHCである。

YOUTUBE出身で、カバー動画を長年に渡ってアップしていたという自分の立ち位置の表明であり、海外のソウルやポップで育った彼のルーツを辿るという二重の意味合いがある。

加えて、彼のピアノ弾き・そしてアレンジャーとしての才能もガシガシ発揮されている。原曲のコード進行を持ってる引き出しから当てはめながら、原曲をただカバーするのではなく、どう藤井風色にアレンジカバーできるかという試行錯誤を感じられる。

藤井風生絞り100%ジュースを飲むならこの作品だよ、という事だ。

タイトルとジャケット

タイトルがHELP EVER “HURT” COVERなのか?つまり、なんで”HEART”(心からの)とかにせずに”HURT”(傷つけた)なのか。

当然オリジナルタイトルの"HELP EVER HURT NEVER"をもじっての名づけなんだけど、直訳すると「傷つけたカバー」的な意味となり、めっちゃ謙遜してるんですよね。

「ワシの拙い演奏でカバーさせてもらっとる」みたいな風君の謙遜というかつつましさみたいな精神をふと読み取って、配慮ある素敵なカバー集だとさらにさらに思えてくる。僕なら絶対HELP EVER "HEART" COVERにしちゃう。オリジナルと韻踏んでるし「心からのカバーです」(ドヤァ)ってなるしな。

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そしてジャケット。目を瞑ったHEHNから「開眼」している。ついにフォースに目覚めましたね。

普通ならオリジナルの方に目が開いているインパクトがある方の写真を使いそうなのにね。これは冒頭述べた「祈り」というテーマによりフィットするのが目を瞑っているからと推測してる。もしそうだとすれば意図的にチョイスしたマネージングサイド、相当良い仕事してる!アルバムコンセプトとのトータルコーディネートめっちゃわかってるし流石!

楽曲について

前置きはここまで。スペースシャワーTVで超有能特集からの情報を交えつつ私見も加えて色々書いていく。

1. Close To You

アルバムの1曲目。武道館でも1曲目だったし、本人なりのこだわりというか直感めいたものがあるのね。きっと聴き手である「あなた」に近づく(Close to you)するという無意識の思いみたいなものがあるんじゃなかろうか。

第1声目から息たっぷりボイスであったかいし、ピアノのタッチも優しい。色々と豊か。本家カレンへのリスペクトを感じる。

スペシャより

・趣味がバラバラな家族だけどみんなカーペンターズは大好き  

・この曲には始まりみたいなものを感じる

2. Shape Of You

2018年、世界で一番売れた曲。あのポンポンポンをどう表現するんかなーと思ったらCome Againのコード進行にアレンジするとは・・・

原曲がポップとラップの中間みたいな曲なだけあって、当然風君もかなりの早口で歌っている。気をつけろ!この男絶対ラップも上手いぞ

歌で言えば低音の「ンーンーンー」は何度も聴いちゃう。

スペシャより

・ループの原曲の印象を変えたかった

come againのコード進行にアレンジ

3. Back Stabbers

 What they do!?

むしろWhat he do?だよこっちは。あの「裏切り者のテーマ」をピアノ弾き語りでカバーするとは・・・って感じよね。

親父さんの影響をもろに受けた良質なブラックミュージックカバー。コーラスの重ね方が特に好きで、低音と中音とファルセットが重層的に絡んで素敵。

他の曲と比べてかなりキーが高い。黒人ソウルシンガーって実はめっちゃ音高いんすよね。そう聞こえないけど。僕もゴスペルをやっているので悩んでるんだけど、日本人の声質ではあのまろやかだけど高い声ってのが、ほんと表現難しい。そこをめちゃ気持ち良く聴かせる風ボイス流石っす。特に1:43からの歌声は人変わった?くらい音色も変えてて驚いた。

スペシャより

・いかに原曲のグルーヴ感・熱さ・勢いをピアノに持っていけるかに挑戦した

4. Alfie

HEHCで初めて知った曲。原曲聴いて泣きそうになった。これに関してはちょっと原曲が良すぎてこの渋さと枯れを表現するにはあと40年はかかりそうだ。

歌詞がとてもスピリチュアルで、『何なんw』のHigher Yourselfの精神の根底がここにある。 

As sure as I believe there's a heaven above,

Alfie I know there's something much more

確かに僕は空に天国があると信じてるよ

でも、それよりも何か目に見えない大きな存在があるんだ

Without true love we just exist, Alfie

Until you find the love you've missed you're nothing, Alfie.

真実の愛を知らなくても、僕たちは生きていけるかもしれないよ、アルフィー

けど君が見過ごしてきた愛に気づかなければ 人生に意味はないんだよ 、アルフィー

60歳の藤井風に歌って欲しい曲暫定No.1だよ、アルフィー。

スペシャより

・愛の尊さを歌っている歌詞で、「自分の内なる心に従えば愛が人生の正しき道を示してくれるよ」みたいな歌詞

・ワシが日本語で表現したかった世界となんとなく共通している

5. Be Alright

ダンスポップ・ディープハウストラックをピアノで大胆にアレンジ。アリアナのメロウでグルーヴィーな歌は踏襲し、弾き語りなのに中毒性があるという謎の一曲に仕上がっている。

それにしても最新鋭のポップスから名曲という意味での「クラシック」まで本っ当に守備範囲が広い。

All them tears gon' come and go

Baby, you just gotta make up your mind

That every little thing is gonna be alright

どんな涙も消えていくものよ

ねぇ、本当はわかってるんでしょう

どんなことだってきっと良くなっていくんだって 

今世界中が大変だけど、私たちはきっと大丈夫。そんなメッセージも込められてのチョイスという気もする。

スペシャより

・コード進行がかっこよくて「ひと聴き惚れ」した曲

・"We're gonna be alright"で一拍抜くところがかっこいい

 6. Beat It

本人の強い希望によるマイコーの楽曲からチョイス。この曲は全曲の中でもピアノの打音が一番デカイ。それだけ本人の気合のノリとロックなこの曲をアレンジする迫力も伝わってくる。ダンスとピアノという違いはあれど、エンターテイナーとしてのカリスマ性をどうしても重ねてしまう。なんならウェーブがかった髪形もそう見えてくるから不思議。

風&マイコーについてはこちらでも少し書いたのでよければぜひ。

スペシャより

・マイケルの曲は入れたかった&Youtubeでカバーしてない曲

・サビのコード進行を変えてちょびっとR&Bっぽいコード進行でアレンジ

7. Don’t Let Me Be Misunderstood

邦題が「悲しき願い」。まずもって印象的なイントロに耳が奪われる。

この曲はなんと言っても終わり方が好き。ラストの大サビも微妙にしゃくって音程に変化をつけて2:28の"Be"で高音で抜いてからの優しい着地

ハイ、ご馳走様でした。これは完全に生で聴いたら鳥肌止まらないヤツ。

スペシャより

・歌詞が好き

・「俺はしゅっちゅう間違いも犯すしダメなやつだろうけど根っこはいい奴なんだ、どうか誤解しないでくれ」という人間くさい歌詞

8. My Eyes Adored You

原曲、最初おばあちゃんが歌ってると思ってました。

完全に主観かつ直感なんだけど、この曲のタイトルが好き。My Eyes Adored youって響きもニュアンスも良いよね。今作で一番原曲に忠実にカバーしてて、これぞ!というピアノバラードに仕上がってる。かと思ったら途中でテンポアップして楽しくなる。

スペシャより

 ・この曲も「ひと聴き惚れ」

 ・上京してから知った曲

9. Shake It Off

ちょい懐かしいテイラーの代表曲。大真面目でシェイシェイ言ってる風君がちょっとおもろい。ジャジーで一番自由な印象受けた。

 ちなみに原曲のMV未視聴であればぜひ観てほしい。絶妙にダサイ彼女のダンスだけど”Shake it Off”(気にしちゃいられない)と言わんばかりの堂々とした立ち振る舞い。この「自分が自分である事を誇る」という尊い姿勢にグッとくる。ここから彼女の映画『ミス・アメリカーナ』に昇華されていく課程は正にドキュメンタリーフィルムというにふさわしい素晴らしさ。

 スペシャより

 ・「ジャズっぽいアレンジとハーモニーで弾いたらどうなるんやろう?」というアイデアを採用→意外といけるんちゃうん!?

10. Stronger Than Me

エイミー・・・泣

本アルバム収録中、一番好きなアーティスト。"Rehab"を初めて聴いた時の衝撃は今でも覚えてる。

言われてみれば、藤井風のエロスというか、時に危ない香りはエイミーの影響が多いのかとうなづける。『死ぬのがいいわ』とか『罪の香り』とかの時に激情にかられるような、粘っこくて泥臭い表現のルーツがわかる一曲。ちなみにエイミー・ワインハウスとエリカ・バドゥを聴くと藤井風理解が捗るので超おすすめ。

 スペシャより

 ・歌い方とか結構影響受けてる

 ・エイミーの曲もマイケルのように入れたいと思った 

11. Time After Time      

全くのノーチェック曲。最初タイトル見た時はシンディ・ローパーかと。で、聴いたらアレ?ってなった人もいるんじゃないかな。

この曲もこのアルバムで知った曲。子守歌だったと語るアルバムの〆に相応しいピースフルな曲。寝る前に原曲と風ver.をエンドレスリピートしてたらいつのまにか寝てるので安らかな睡眠導入にオススメ!

スペシャより

・子守唄として聴いていた、自分の原点みたいな曲

いかがだったろうか

Yaffleサウンドの周到なアレンジが無い分、藤井風というアーティストのピアノ演奏そしてコーラスワークも含めた声を最大限感じられるアルバムだと思う。

個人的に注目して欲しいところは「声そして演奏の置き所」と「何も鳴っていない空白」だ。これこそがのっぺりした演奏か、グルーヴを感じられる演奏なのかを分けるのよ。緻密に計算された、あるいは長年の経験と閃きで空けた「一拍」に宇宙を感じてほしい。

洋楽が聴かれない世の中になってるしフェスは開催できないしで縮小傾向なんだけど、HEHC聴いてたら改めてワールドミュージックに触れたくなった。まぁかく言う自分もここ3年くらいは邦楽が面白過ぎてだいぶ聴けてないんですけどね。

色々と聴いた上で、藤井風というアーティストがどうすごいのかについて、これからもずっと追っかけていきたい。

 

それではこの辺でアディオス。

 

HELP EVER HURT COVER

HELP EVER HURT COVER

  • アーティスト:藤井 風
  • 発売日: 2021/05/20
  • メディア: CD
 

 

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