僕はレベル40

心が動いたことをかいていく

藤井風2ndアルバムレビュー。"LOVE ALL SERVE ALL"こそが今世界に必要な心意気だ

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藤井風公式HPより

Heal the World』という曲をご存知だろうか?藤井風が最も敬愛するアーティスト、Michael Jacksonの代表曲の一つだ。

この曲は"Free" Live 2021においても歌われた*1楽曲。「世界を癒そう」という非常に壮大なテーマを扱ってはいるものの、「Make a little space, Make a better place(小さくても良いから踏み出してみよう)」というミクロの行動がマクロの世界を変えられる、という強い意志を歌っている。

Love is strong, it only cares for joyful giving

(愛は強い、そして愛こそが喜び与える事を生むんだ)

ここなんて今作テーマそのものと言っても過言ではない。アルバム何周も聴きこんだ今、このマイコーの精神性、特に「隣人愛」とでも呼ぶべき他者を愛し与える心を強く受け継いでいるのが、藤井風の新作『LOVE ALL SERVE ALL』だと確信している。

奇しくも1stアルバムのレビューを書いた時と全く同じ記事タイトルになってしまったが、未だに収束を見せないコロナ禍、ウクライナ・ロシア情勢といった混迷を極める世界において、「他者を愛し、他者に奉仕(行動)する」というメッセージは最も基本的でありながら、大切な心掛けであると思えてならない。

 
 
 
 
 
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と、書いていたら3/31の「オールナイトニッポン」でオープニングも弾いてくれた。考えが少しシンクロしたようで嬉しい。

 

まぁそんなことを連々と色々と書いていく。

ちなみにこっから長いよ?

 

アルバムについて(前作比較)

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素敵な風スマイル

あらためて『LOVE ALL SERVE ALL』(以下LASA)というタイトル。前作『HELP EVER HURT NEVER』(以下HEHN)と同じく四つの語で構成されている。アルバム毎にナンバーを振っていったり、規則性を持たせるアーティストも多いが、この四語構成は風アルバムとして非常にしっくりくる。

そして意味。アルバム付属ブックレットにはLASAは「愛全奉全」と四字熟語的に訳されており、単純に解釈するなら全てを愛し全てに奉仕する、となる。ここで大事なのが、愛し、そして他者に尽くすという事だ。個人的にタイトル付けにはアーティストの矜持や美学が現れると思っているので、この愛した上で他者のために行動する、という事まで含めて大切にしている事がよくわかる。

で、肝心の楽曲についてだが、HEHNはデビュー前からの珠玉の楽曲達を並べた粒の大きいアルバムという印象で、『風よ』といった自己を投影した祈りのような楽曲、『罪の香り』といったネオ歌謡曲とでも言うべき楽曲など音色がかなりバラエティに富んでおり、『死ぬのがいいわ』や『帰ろう』などの落差でジェットコースターのようにクラクラする感覚があった。

今作LASAではより洗練され、アルバムトータルで聴く「コンセプトアルバム」としてのテイストが増したように思う。それは後に語るが主にアルバム曲が収録されている4~9曲目の印象がそうさせているかもしれない。

現段階での自分の正直な感想としては、初聴時に脳天をブチ抜かれ、永遠の初恋の人になってしまったHEHNに比べて、衝撃はHEHNよりも少ないけれどアルバムとしての完成度が高く、5年後、10年後に聴いて好きになりそうなのはLASAだな、というくらい。僕はちょっとHEHNを聴きすぎた人でフェアじゃないので、もう少し後にならないとどっちが好きかはわからないかな。

あと、一番成長したのは歌唱力だと思っていて、間違いなくLASAの風歌は完全にシンガーとして翼が生えたと思う。ここら辺は曲レビューで触れる。

 

全曲レビュー

こっからは全曲に渡ってレビューしていく。なお特典の『LOVE ALL COVER ALL』はどこかのタイミングでまた書く、はず。

 

01. きらり

もはや押しも押されぬ藤井風の人気曲であり自身No.1ヒット曲となった『きらり』。

内容については過去にしっかり書いたので、こちらを参照いただきたいが、あらためてこの曲が始めて能動的に愛を歌った楽曲である事はあらためて注目したい。

imlv40.hatenablog.com

 

そう、「動機は愛が良い」という強い意志表示をはじめてしたのがこの曲。

今にして思えば、この辺りではLASAの根底に流れる「愛」のテーマはこの曲で決まっていたんやなと。この流れの延長に『まつり』があるという意味でも正しい曲配置。

02. まつり

LASAのリード曲であり、この曲こそが藤井風の新章を表していると言っても過言ではないと思う。「もう愛しか感じたくもない」というワードチョイスだけでどれほど風本人が愛モードになってるかがよくわかる。一聴して篠笛と祭囃子が鳴る楽しい曲と思いきや、歌詞に内包されたメッセージや音の洗練は恐ろしく深い。

こちらも最近書いた。藤井風ばっか書いてんな、僕。

 

03. へでもねーよ (LASA edit)

LASA edit初聴時、相当笑ってしまった。そう、また「こう来るか」という笑いだ。

シングルリリース時、怒りを前面に押し出した楽曲・パフォーマンスも時が経って心境の変化を反映したアレンジとなっていて、分かりやすいところで、イントロのBEEP音(サイレン)が三味線?っぽい音に変換されていたり、キックの打音が和太鼓のようにエディットされており、聴こえ方がえらい違う。『まつり』からの「和」の流れを壊さない事を大事にしているように感じる。歌詞自体は変更無いものの、変なところで半音下げて歌ってたり、微細にアレンジしているっぽい。(正直どんな効果はよくわからんが)。しっかし何度聴いてもこの曲のYaffle氏のビート職人っぷりには驚いてしまう。絶対無理だけど300人キャパの会場だったらこの曲一番盛り上がれると思う、マジで。

 

04. やば。

『何なんw』、『もうええわ』、に続き、本人の口癖を曲名にしたというこの曲。

音色としては80’s後半から90’s R&Bナンバー。イントロの感じとかBrian McKnightとか思い出したけどね、とにかく歴代風楽曲で一番R&Bしてる。

この音色ならば男女のLove Songが定番中の定番、というかそれ以外何歌うねん?というムードではあるが、この『やば。』で歌われている愛は真の意味は男女の恋愛よりも、もっと根源的な”Higher Self”を歌っていると思われる。この点、『何なんw』やMISIAに楽曲提供した『Higher Love』とも通じる。

さっさと行こうか もっと遠くへ 高いとこまで

その目を覚まして どこまでも どこまでも

個人的に好きなラインは

何度も何度も墓まで行って何度も何度もその手合わして

この墓がリアルなお墓か精神的ものなのかはわからないが、相当なインパクト。

歌については低音から高音まで、歌手としての修練と成長が感じられる。これ歌いこなすのにどれだけの練習をこなしてきたかを想像しただけで泣ける。細かい語尾の処理、ブレッシング、ミドルボイスとファルセットの行き来・・・挙げるとキリがないくらい様々なテクニックが詰まってる。そしてこの曲でもR&Bシンガーが多用するフェイク*2が連発。このテイストでフェイク使わないのは嘘と思うが、すごい使ってる(小学生並の感想

特にラスサビは芸術。言葉にならない「やばっ!!」とか「もう」という感情を表し、強調するためのフェイクだと思うけど、表現者藤井風がこういうところで出てくる。

あと、サビのメロディのピアノで終わるアウトロもおしゃれ。なのにこの綺麗な旋律の上でYABA!YABA!連呼してんの冷静に考えると相当ウケル。変な話、綺麗すぎる川には魚は住めないので、こういう抜きを作ってくるのも藤井風スタイル。

 

05. 燃えよ

アルバムも中盤にさしかかろうという曲。この曲は紅白のサプライズ演奏も記憶に新しいが、個人的にも去年一番聴いた曲でもあるのでかなり思い入れある一曲。

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改めてアルバム通して聴いて、「SERVE」するために必要なメッセージが込められているなと感じた。

燃えよ あの空に燃えよ 明日なんか来ると思わずに燃えよ

クールなフリ もうええよ 強がりも もうええよ

汗かいてもええよ 恥かいてもええよ

誰かを愛すだけではなく、何かを成すために「燃え」なければならないと強く背中を押してもらえる、そんな人生の応援歌。頑張れなんて一言も言わなくていいのよ。


06. ガーデン

さて、『ガーデン』。風ハミングから温かく始まるこの楽曲。とにかく暖かなガーデンの空気が随所に散らばっている。とりあえず今作、一番好き。断トツで好き。何が好きってメロディと展開が好き。

本人が過去ラジオにて「歌詞はメロディに呼ばれる言葉を探せ」と発言していたが、この『ガーデン』の歌詞は全てメロディに導かれて置かれているような気さえしてくる。

まず分かりやすいところで、歌詞が母音の”e”で終わっている。

雲は夏を帯びて

私は目を閉じて

綺麗な時間だけ

言葉が作るリズムの大切さがわかるが、いかにメロディに「しっくり」くるかでワードチョイスしてそう。

そして後半の展開が狂おしいほど好き。具体的には2:33から。

これ、実はゴスペルのアレンジ手法で、最後に聖歌隊がコーラスに加わって、かつキーが×n回上がって転調していく。ドラマティックさとテンションの上がり方が半端じゃなくなる分歌いこなすのが単純にキツくなる手法である。本場アメリカではこっからあと2、3回は転調していく。『ガーデン』においてはボーカルシンセ(プリズマイザー?)がたっぷりかかった重厚なコーラスになってて、サウンドメイクが現代っぽいなーと素直に感心してしまった。ヤッフルヤッフル。

この楽曲は恋の歌にもとれるし、神様に恋焦がれる曲ともとれる内容で自分のモードに合わせて聴ける曲。

 

07. damn

ベース曲。イントロから低音が前にグッと出てて、そこを起点に曲が展開していく。前作でいう『さよならべいべ』的な立ち位置の楽曲で、今からこの曲で盛り上がるライブの絵が浮かぶよね。

しかし!!この曲、ノリノリに見えて歌詞はかなり内省的。もがいてもがいて泳ぐ風氏がみてとれる。

全て流すつもりだったのにどうした?

何もかも捨ててくと決めてどうした?

明日なんか来ると思わずにどうした?

こちら、『帰ろう』の「ああ 全て流して帰ろう」とか『きらり』の「何もかも 捨ててくよ*3」とか『燃えよ』の「明日なんか来ると思わずに燃えよ」がおそらく元ネタなんだが、この「言うは易く行うは難し」的な壁に本人ブチ当たっていると思われる。こんなにも達観しているように見えるがまだ20代も前半の彼。「こんな事歌っとんのにワシ全然やな・・・」とそりゃあ思うでしょうよ。そういう意味で曲名の『damn』は便利な言葉で色々な意味があるが、「チクショウ」的なニュアンスも相当濃いように思える。"hey little father won’t u come with me"と神?に救いを求める部分も垣間見えるしな。

ただ、まだ解けてない謎が一人称「ワシ」じゃなくて「おれ」なのよね。最近の口調を反映してただ東京に染まっていってるだけなのか?それはそれで寂しいんだが。

 

08. ロンリーラプソディ

この曲も相当好き。このイントロは何かのサンプリングなんかしら?クリック音からの歌謡曲モードで、とにかく「哀愁」の2文字が音色からも歌詞からも伝わってくる。

まずタイトル。『ボヘミアン・ラプソディ』なんかに代表される、この「ラプソディ」の意味は「狂詩曲」。「狂詩曲」とは「自由奔放な形式で民族的または叙事的な内容を表現した楽曲*4」との事で「孤独」をテーマに風氏の胸の内が歌われている。自由奔放というのに相応しく、歌詞は相当入り組んでて、前半と後半で内容が逆転したりしてクラクラしてくる。

前半:

君は誰なの 僕は僕だよ

後半:

君は誰なの 僕は君だよ

正直こちらはまだよくわかんないので解析中。誰か良い考察あったら教えてほすぃ。

あと、LASAは、『やば。』にしろ『ガーデン』にしろこの曲にしろアウトロにも相当こだわっていて好き。

 

09. それでは、

「藤井風」という映画を撮るなら確実にエンディングに挿入される曲。僕の最高に安眠できるプレイリストが更新されるレベルで気持ちいい。まず、この「あたたかな」という第一声で昇天できる。もうね、実質エンヤです。藤井エンヤ。

さて、『それでは、』において、実は2つの「事件」が起きている。

事件1.ビートレス&オーケストラ

既存曲で彼の楽曲には相当に珍しくドラムもベースも無い。一方でヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスというClassicalな弦楽器を贅沢に取り入れた新境地になっている。

特に2:09の「春が来る」というフレーズ後のセクションは絶品of絶品。目を瞑ればそこに春の風が駆け巡るような気すらしてくる。クレジット見てみるとこの曲のために多くの演奏者がフィーチャーされている。豊かな時間とはこの事を言うんだと思う。

事件2.ビブラート

そんな事?と思うかもしれんが、個人的には結構な事件。R&Bの最もメジャー且つ重要な歌唱法に「ビブラート」がある。

ビブラート(伊: vibrato)とは、演奏・歌唱において音を伸ばすとき、その音の見かけの音高を保ちながら、その音の特に高さを揺らすことである。(引用元

この話をすると長いので大分端折るが、ロングトーンを真っ直ぐ伸ばして歌うのとビブラートをかけて歌うのとでは、聴き心地の変化、喉への負担等かなり差がでる

風氏はライブ/音源どちらでもこのビブラートをおそらくあえて使わずに、前述のフェイクを多用していた。僕はビブラートが得意でフェイクが苦手なので風スゲエ!と思っていたのだが、ここにきて新しい「引き出し」をあけやがった。具体的には2:52からのロングトーンね。

また表現の幅が一つ広がった瞬間であるが、きっと曲によってしっくりくる表現方法を選ぶんだろうな~また楽しみが増えた。

 

あと、この曲の白眉はラストの

会いに行く幾重の闇を超えて微笑みを湛えて

それでは、お元気で

の箇所。歌詞的には『帰ろう』に繋がる気がしていて、自分の中でまだ考察中。歌も出だしのオクターブ上でファルセットで歌っていて、ここにも深い意味付けを考えてしまう。いつか考えをまとめたい。

10. “青春病”

個人的に『優しさ』と双璧で完成度が高いと思ってるこの曲、実はリリース当初あまりピンときてなかった。

僕は同時リリースの「へでもねーよ」派を宣言し、つらつら書いていたんだが、特にライブでの『青春病』のあまりの良さに撃ち抜かれてしまって、歌詞の深さも含めてやっと自分の腑に落ちた感じだ。そんくらい自分にとっては大きすぎて呑み込めなかった存在。青春を賛美する曲は多い。青春サイコー!眩しくってキラキラ。それも良いだろう。

でも、青春は眩しく尊い、故に脱却し「サヨナラ」を告げなければならないというこの曲は一段も二段も深いし、逆説的に青春の眩しさが際立っているように感じる。

切れど切れど纏わりつく泥の渦に生きてるこの体は先も見えぬ熱を持て余してる

過去から何っ度も書いて恐縮だがこの歌詞が自分に刺さりすぎて怖い。自分の少年期をこんなにも適切に表現されるとは・・・こんな表現者をアーティストと言わずに何というって感じよ、ほんと。

ちな、LASAでは“青春病”と若干表記が変えられている。

 

11. 旅路                                                                                               

LASAの〆。最近のライブもずっとこの曲でラストを迎える、終わりだけど始まりの曲。今作のシングルカットでは多分一番好き。

初めて「色々あるけど」という歌詞を読んだ時、そらそうよとちょっと笑ってしまったが、曲が体に馴染み切った今、この「色々ある」がめちゃめちゃ重みを増している。

出会いと別れは表裏一体で、みんな色々あるけどこの僕たちの「旅路」は続いていくというメッセージ。ドラマ「にじいろカルテ」よろしく、これだけにじいろでカラフルなアルバムの最後に配置されていると、長いドラマのエンディングのような気さえしてくるね。これしかないというラスト。

 

いかがだったろうか

色々書いたけど、総じて藤井風というアーティストが正に成長期を迎えている事がわかったアルバムだった。「僕らの時代は藤井風がいた」って後から自慢できる、素晴らしい一枚。これってすごい幸せなことね。

焦らずゆっくりと健康に気を付けて、これからも末永くやば。な楽曲達をリリースして欲しいと心から願ってる。

 

それでは、また。

LOVE ALL SERVE ALL (初回盤)(2枚組)

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*1:権利の関係でアーカイブからは削除。残念すぎるが。

*2:本来の音程を変化させて歌うテクニックのこと。ブラックミュージックにおいては必須of必須テク。

*3:コメントにて風民さんにご示唆いただきました、感謝!

*4:Wikiより。ボヘミアンラプソディーもそんな意味なのか・・・初めて知った

最上の「雅」と「裏切り」の音楽、藤井風の『まつり』について

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笛の音とらっせーらが鳴りやまない。仕事をしててもご飯食べててもランニングしても一生頭の中であの旋律が流れている。

 

みんなもそう・・・よね?

え?何のことかって?

 

もちろん藤井風の『まつり』ですよ。

 

2nd アルバムである『Love All Serve All』の発売の「祭り」を目前に控えたタイミングでのMV&配信投下。

 

藤井風の新章を彩るこの『まつり』について色々と語っていきたい。

 

最上の雅と裏切りの音楽


www.youtube.com

まさか「こう」くるとはな。

 

そう、ピアノのイントロからの「和テイスト」でせめてくるとは。

いやね、贅沢な話で、『旅路』も『きらり』も『燃えよ』も全部好きなんですが、風ピアノにも飢えてたんですよ。

 

それがまずイントロからズドン。僕がどれだけ「キターーーー!」と思ったかはこの拙い語彙力では言い表せない。

 

と思いきや、あの笛の旋律が高らかに鳴り響く。

 

・・・雅。

 

辞書的な意味では「洗練され、優美なさま」という事だが、この宮廷風の上品な楽器使いといいMVのきらびやかな様を見るとこれを「雅」と表現せずに何というのだと・・・意味知らない外国人も「Oh, this is “Miyabi”・・・」って呟いちゃうレベル。

 

かと思えば、ガチガチの「Trapビート」。

以前にも再三書いている、現代音楽のトレンドであり、「チチチチチ」とハイハットが連続で鳴るこのビートの事で、『キリがないから』や『へでもねーよ』に使われているリズムの事なんだが、雅楽風の笛が鳴り響く下にはずっとこのTrapビートが鳴っている。

imlv40.hatenablog.com

 

僕ね、前から藤井風の楽曲は「裏切りの音楽」だと思っていて、僕らの予想を裏切る音作りを毎回してくる。

 

ここで言う裏切りは二つの意味があると思っていて、

まず、笛の音×Trapという耳馴染みの無い音を今日本で一番注目されている藤井風が奏でるという意味。

例えば『優しさ』の終盤大サビで鳴り響くあの激しいビート。いやいやいや、普通にピアノのバラードでも成立するでしょ!?と素人は思うが風&Yaffleは違う。裏切る。

いや、「奇抜な組み合わせ」はほんとに一歩間違うと目も当てられないレベルでコケるからね。この組み合わせか!という裏切りが一点目。

 

そしてもう一つは毎回曲のテイストを変えてくるという点。『旅路』において、もろにブラックミュージックの煙たい音色で攻めたと思ったら『きらり』では四つ打ちビートで真っ直ぐきたり。また裏切る。

決して一辺倒にならず、毎回驚かせてくれるこのサウンドプロデュース力・・・恐るべし。チーム藤井風。

 

あと歌詞も相当裏切ってくるんだけど、まずはサウンド面の裏切りでそんなとこ。

 

あと、このイントロでご飯10杯いけるのでもう少し語る。

 

イントロ、ヘッドホンでよーく耳を凝らして聴いてほしい、「ハッ」というLowな風ボイスで「祭囃子」が聴こえる。

つまり「風ピアノ+笛の音+Trapビート+風ボイス」という主に4つの要素で構成されている事がわかるが、このイントロこそが曲全体の上品さやビート感を最も表していると言っても過言ではない。うん、きっとそうだ。

ここに至るまでにどれだけのアイデアが出され、ボツになり、完成したのかという過程は想像する事すらできない。

 

歌と詞

最上の雅サウンドに乗る歌と詞。

 

相変わらずという表現が正しいかはわからんが、とにかく耳に残る。そして胸に刺さる。

 

まず、自分的に刺さったメッセージはド頭。

 

愛しか感じたくもない もう何の分け隔てもない

まとめてかかってきなさい 今なら全て受け止めるから

 

過去に『きらり』でついに能動的な愛を歌った事に衝撃を受けたが、もう完全に愛の人になっている。

 

imlv40.hatenablog.com

 

『Love All Serve All』というタイトルが表すとおり、根底に愛が流れており、この曲もその愛を象徴するメッセージを掲げている。

「感じたくもない」というワンフレーズだけで、風氏の強い思いが感じ取れる。

 

で、一体何がほしいわけ

誰に勝ちたいわけ

 

え?先週この曲作ったんですか?ってレベルで世界情勢をもを反映した歌詞で疑問を投げかけている。

ほんと、自分の欲とか虚栄心みたいなものが全部裸にされる気分だよ、こっちは。

 

花祭り 夏祭り

 

秋祭り 冬休み

                                                                

と全ての歌詞を春夏秋冬でまとめるのではなく、「花」=”The flowers bloom!”=春と婉曲して季節を表すのがお洒落。あえて、冬休みとして言葉はハズシつつも押韻はしっかり押さえるあたり素敵。

 

僕が激しく泣いたせいで

君が派手に笑ったせいで

 

 

の箇所でサウンドがディストーションギターで歪み、一気に曲が展開するところもまた裏切りポイント。ここでガッと曲がドライブする。

 

そしてここが極めつけの個人的泣きポイント

 

祭り 祭り 毎日愛しき何かの 祭り 祭り

あれもこれもが有り難し

苦しむことは何もない

肩落とすこた一切ない ない ない

 

 

何?この許された感・・・?

僕結構ネガティブなもんで、人の反応が気になったり、すぐに人と比べちゃうんですけどもう全てが受け入れられた感。

何でもない今日この日こそが尊いんだというメッセージ。俵万智のサラダ記念日じゃないが、今日もあなたにとって、誰かにとっての「祭り」なのね。

『帰ろう』を初めて聴いた時のようにスッと、でも落ち着くのではなくとにかく「踊」っちゃいなというもう一段上がった楽曲としてのデザイン。

 

この流れがあってこそ、一見意味を持たない「らっせーら」や「しゃ」のようなワードチョイスこそが、逆説的に意味の深さを増しているようにも思える。

 

そしてこの素晴らしい歌詞を届ける温かい声ね。

 

歌詞の内容が内容なだけにかなり抒情的に歌い上げているが、個人的に刺さった歌唱はほんの短い歌詞「ない」である。

 

今回、特に「フェイク」という歌唱法を全開で使用しており、

「肩落とすこた一切ない ない ない」の「ない」の音階が上下に動き、「一切ない」というメッセージを強調しているようにも思う。

こういう細かい表現の積み重ねがめっちゃ許された感の出どころなのかもしれな。楽器、歌、メロディの緻密な織り重ねがこの強い感動を生んでいる。

 

いかがだったろうか

感動し過ぎて、手が勝手にキーボード叩いてたわ。

こんな辺境のマニアックブログを読んでいるあなたは既に最新作『Love All Serve All』を購入済みとは思うが、僕も同じく心の底から楽しみにしている。

しばらく「風しか感じたくもない」状態になると思うので、堪能した後にアルバムについて色々書いていきたい。

 

それではアデュー。

 

 

LOVE ALL SERVE ALL (初回盤)(2枚組)

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僕はAwichの魅力を語りたい ~Newアルバム『Queendom』リリース記念~

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Awich公式HPより


女王(クイーン)、女神、女帝、姐さん、しーじゃ、覇者・・・Awichの呼び名の多くはどれも位(くらい)が高い。

元々そう思うわせるだけの気迫と実力があったわけだが、最新作『Queendom』はレベルが違った。聴いて鳥肌が立つ程に。

泣けるアルバム、首を振れるアルバムといった素晴らしい作品はここ最近多いものの、「鳥肌が立つアルバム」というのはここ最近なかった。

そんな名盤をリリースした彼女の偉業、そして魅力についてもっと広まって欲しい一心で色々と書いていきたい。

 

AIやRADWIMPS等ジャンルを超えたコラボレーションも積極的に展開しているので、今後の邦楽動向をチェックする上で超重要人物になるのは間違いないので知らなかった人はぜひ。           

Who is Awich?

Awich(エイウィッチ、1986年12月16日 - )は、日本の女性歌手、ラッパー。沖縄県出身。YENTOWNのメンバー。 19歳で渡米し、学士号を取得。アメリカ人男性と結婚し娘を出産するも、夫と死別。その後日本に帰国し、本格的な音楽活動を再開。2020年ユニバーサルミュージックよりメジャーデビュー。

Wikipediaより

レぺゼン沖縄

平成という時代のDIVA、安室奈美恵を筆頭にDA PUMPや三浦大知ら独自性を持った沖縄のアーティスト達。

そんな沖縄には今良いラッパーがとにかく多い。 

Awichも勿論その内の一人なんだけど、日本でも特異な文化圏がそうさせるのか、とにかく声もフローもメロディも特徴的且つオリジナリティに溢れてる。

しかし、今作『Queendom』ではこの沖縄という島が、Awichにとってはある種の「業(カルマ)」であった事が刻銘に語られている。

安売りした my body and soul 鼻で笑われてた「bitch you a Hoe」

死ぬほど憧れたフェンスの向こう 大嫌いだった Okinawa is my home

飛び交うヘリコプター ここから飛び立ちたかった 重くしがらむこの島のカルマ

Queendom 

横浜、川崎、大阪、名古屋と特に出自を大切にするヒップホップアーティストは多いが、Awichにとってもそれは例外ではない。だからこそ沖縄を愛しつつも、彼女を縛る呪いでもあったという点は興味深くそしてリアルだ。

よく考えれば自分にとっても地元は愛しているけど憎い部分もある両面持ち合わせてたしな。別に沖縄出身者でなくとも響くもんは響く。

余談だけど、たぶんSPEEDの『Body and Soul』も文字って細かく沖縄要素を刻んで入れているあたりセンス◎。

YENTOWN

彼女のプロデュースを担うChaki Zuluらを中心メンバーに据えたヒップホップクルー、YENTOWN。こちらもAwichの楽曲に多大な影響を与えているので少し触れる。

JNKMN、PETZ、kZmらが所属しており、BADHOPらの川崎勢とも違うサウンドテイストで、現代ヒップホップシーンのトレンドを作り出す側のクルー。

ちな、僕はkZmめっちゃ好き。Bloc Partyのサンプリングが最高すぎる。

www.youtube.com

Awich自身も”MONYPETZJNKMN”の客演として呼ばれていたり、kZm一人の客演だったりと流動的。新作でも『WheU@』でYENのメンバーがネームドロップされてるし、常に一緒にいる家族というよりも、ゆるく独自性を大事にした、でも絆は深い家族という印象。

 

他のアーティストからのリスペクト

所謂アーティシズムの化身とでも言うべきアーティストで、ヒップホップ界隈の中も外からも熱い支持を得ている。

まず、ヒップホップ界隈からの扱われ方はこちらの動画を観てもらえば一発でわかると思う。

www.youtube.com

AKLO、R-指定、IO、T-Pablow、YZERRという日本代表とでも言うべきスタア達の中、見事にトリを担いまとめあげるこの胆力に震える。画面越しにチキン肌がヤバい。

楽曲ではANARCHYやMighty Crownといったヒップホップ・レゲエ界の大物とも共演しており、後ほど触れる今作のメンツを見ても間違い無く日本トップのリスペクトのされ方。

一方他ジャンルとのコラボレーションも積極的に行い、クロスボーダー化を進めている。SOIL & "PIMP" SESSIONS、KIRINJI、AI、RADWIMPSといったジャズ、ポップ。R&B、ロックと、もうボーダー超えまくりである。個人的お気に入りはSoilとのこちらの楽曲。

 

先日の関ジャムでも様々なプロデューサー陣から絶賛されているし、藤井風が「流石に伝説」とYOUTUBEに熱くコメントする等若手ミュージシャンにも多大な影響を与えている。これ前にも書いたな。

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最新アルバム”Queendom”

「女王の国」ここに建つ。

リリース後、アルバムトータルで何度も聴いたが、とても一言では語りつくせない。あえて、一単語だけで表せと言われたらそれはもう「覚悟」で間違い無い。

そう、私が”QUEEN of HIPHOP”になるという強い覚悟だ。

1曲目の『Queendom』は上で触れた沖縄への呪詛、そしてアトランタでの夫の死という悲劇についてあまりにもリアルに語られている。

彼女の自分史を駆け抜ける中で芽生えた覚悟が次のフレーズにギラッギラに輝いている。

One 知性で稼いでくMoney

Two 美声に宿らせるPower

Three 体に絡みつくRespect

For the freedom, this is my Queendom

極東の女王 イタミはNo more 

2曲目の『GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR』はもはや説明不要のキラーチューンとなった。ヒップホップでは「ボースティング」という自己賛美の文化があるが

病める民が求むこの言葉がセラピー          

って半端じゃない。

普通いくら稼いだだの、俺の女がどうだのとボースティングするもんだが、「民が求むこの言葉がセラピー」って最上級に自分を上げてて、感動すら覚える。

「姉さんならもっとイケる」あの日YZERRが言ってくれた

というこのフレーズが示すようにこの頃から明確に王国建設を志して上に上がる事を意識している事に後から気づく。

ちなみにこの曲はプロデューサーのChaki ZuluによるビートとJPのラップの中毒性がやばすぎる。JPはリリーススピードもクオリティも調子良すぎてもう手が付けられないね。

 

個人的には『Heartbreak Erotica』の変幻自在フロウ中毒になってるし、『Follow me』の抒情的な歌詞にもグッときた。

風の結人達が歌う愛の結歌に波が踊る

雲が流れて月が満ちるあなたに心寄せる

今をときめくKEIJUと¥ellow Bucksをフィーチャーした “Link Up”では

私がBoss Gyal 覚悟は決めた 異論は認めん

唾奇もOZもチコもdaiaも皆ついてこい

 

キャー、僕も姉御に「異論は認めん」って言われたいです。沖縄の後輩達を先導するこの歌詞に痺れすぎて何っ回もリピートした。

『口に出して』にもハマっちゃって以前こんな記事を書いた。

 

imlv40.hatenablog.com

 

しかしやはり今作の白眉は『Skit (Toyomi Voicemail)』からの『44 Bars』。愛娘の熱いVoicemailから繋がる愛と覚悟の44小節。

RedBullの64Barsという企画をオマージュした?形で今感じている事、大事にしている事をすべて吐き出している。

 

なぜこんなにも胸に迫るのか?

それは圧倒的にリアルで内省的だからだ。

 

大きくなったけどまだ小さな手 親子の絆なんてちゃっちい言葉で

説明できるもんじゃない言うならば共犯者 産まれた時から since 2008

自分の子供を「言うならば共犯者」と表現する事、そして「ちゃっちい言葉」に込められた彼女の感情の載せ方のエグさ等音で聴くとまた10倍ヤバい。

 

完成していたアルバムを白紙に戻し、「時代を作る」つもりでゼロスタートを切ったことや、自分を脅し追い込み、ゆえに感じていた恐れについても赤裸々にspitしている。

曲の、そしてアルバムのラストフレーズ。

やる、今、出来ることの最善 let’s go

普通レッツゴーはアルバムのド頭にもってくるもんよ。

それをラストのラストに持ってくる事の意味。このアルバムですら始まりでしかなく、自分がヒップホップオーバーグラウンドまで上げてやる、そのスタート地点だとでも言わんばかり。

この覚悟よ。『Queendom』を冠するこのアルバムの〆にこれしかないという曲。

 

私が、引っ張っていくんだ、新しい時代

これを言えるラッパーが、アーティストがどんだけいる?

 

Awichの高らかな王国建設宣言に拍手。

 

いかがだったろうか

思ったよりも色んなラッパーの名前を出しちゃって、ビギナー向けの記事じゃなくなってしまった気がする。

凄い凄いばかり言っていたし女王だの女帝だの言ったからすげークールで高圧的なイメージが湧いてるかもしれないが、実は所作や笑顔等めっちゃ可愛いし、感受性の豊かさ、繊細さ等を持ち合わせている。

あと、彼女の魅力は何よりもライブでのステージング。この武道館でのライブはクオリティとしても出た面子としても日本の音楽史に刻まれるべき名演だった。興味沸いた人は絶対に見るべし。無料で見れるからぁ!!

アメリカで学士号2つ修得するという勉強家の面もあるし、まだまだ語りつくせない魅力に溢れている。今後色んなジャンルで彼女がフィーチャーされていくのは間違いないので、書いてきたような背景を知っているとまた違って聴こえるのでマストチェックでよろしく。

 

それでは今回はこの辺でアディオス。

 

Queendom (DVD付)

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「ライナーボイス」って知ってる?「Liner Voice+」宇多田ヒカル BADモード 編

 

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公式HP"MUSIC"より


BADモード聴いた?ちょくちょく疑問形から入るけど、タモさんの「髪切った?」くらいのニュアンスで尋ねてるので重く捉えないで欲しいんだけどね。

やっぱりヒカル先輩凄すぎっす!と軍門に下るしかないレベルで期待を裏切らなかった新アルバムだけど、この「Liner Voice+」がめちゃめちゃ良かったので書いていきたい。

ライナーボイス?

ライナーノーツなら知ってるよ!って人も多いかも。洋楽のアルバムを買うと付いてくるあの解説小冊子の事ね。自分も散々洋楽のアルバムを買ったクチなので、一つの文化としてとても楽しみにしてた。音楽ライターさんの書く文章が好きで、添え物として以上の周辺知識や楽曲・アーティスト小話を知る事には理解を深めてくれる大きな意義があった。

しかし2022年現在、洋楽のアルバムを買う事がほぼ無くなってしまった。答えは単純、Youtubeとストリーミングがあるからである。そもそもCDプレイヤー自体がホコリ被ってるしな。

最近読んでないなぁと思ってた時に「ライナーボイス」という曲解説、しかもアーティスト本人で!?というのを知った。

 

反則・・・!圧倒的反則・・・そんなの勝ちたれへんやん・・・!!!

と僕がライナーノーツライターだったら号泣もんのサービス。

 

え?プレイリスト付き?しかも無料で!?

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という事でまとめるとこんなプログラム。

 

1.本人による詳細な曲解説・エピソードトーク。

2.解説を聴いて曲を聴く⇒次の曲の解説からの曲聴く、をアルバム全曲繰り返すという流れ。

3.無料(Spotify登録の必要有)

 

 

Liner Voice+」宇多田ヒカル『BADモード』

結論から申し上げますと、大変勉強になりました。アルバム一曲一曲の解像度がぐっと上がって、浸透してくる感じ。これはながら聴きでは絶対にたどり着けない境地。

そもそも宇多田ヒカルというアーティストが自分にとってはまだミステリアスで、本人の肉声を1時間以上聴けるってだけで超嬉しいしね。

 

『BADモード』の音作り現場、なぜ『Pink Blood』はピンクの血なのか、かの「人間活動宣言」から早くも10年以上が経過し、「自然体の宇多田ヒカル」が辿り着いた先。パジャマなのに、いや、パジャマだからこそ君に近づけるとでも言わんばかりの素の姿の宇多田ヒカルが、どういう心持で書いた詩なのか。

そんな秘蔵のエピソードと曲を一緒に楽しめる「Liner Voice+」をぜひ堪能してみて欲しい。

 

ちな、英語バージョンもある。日本語に無いエピソードなども入ってるのでリスニングがてらこちらもお楽しみあれぃ。

 

いかがだったろうか

僕、特に好きなアーティストのアルバムは骨までしゃぶりつくしたいタイプなんですよ。

だってさ、一人のアーティストが何年も何年もかけて多くの才能あるミュージシャンとの共作であり結晶なんですよね。

スイカ食べてたら緑の皮食ってました、みたいなくらい楽しまないと損ですぜ。

そんなこだわり派のアナタにぜひ!というお話だったのだが少しでも伝わればこれ幸い。

 

東京事変やaikoもそれぞれのアルバムについて、深~く語っているのでそちらもマストチェックね。

 

もっと流行れ!ライナーボイス文化!!という事で今日はこの辺でアディオス。

 

 

"THE FIRST"最後の祭り!"THE FIRST FINAL"を見逃すなかれ

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今までの人生で所謂ボーイズグループにハマった事はなかった。そりゃね、SMAPの『世界に一つだけの花』はそらで全部歌えますし、1Dの『What Makes You Beautiful』はDJでかけまくってたし、SixTONESのマスカラはヘビリピしてますよ?

まぁでも広く浅瀬ちゃぷちゃぷ型リスナーなので、本命アーティストは別にいつつ好きな曲流行った曲あれば聴きまっせぐらいなのが自分な訳ですよ。

そんな僕だったが結論から言うと、どうかと思うくらい沼にズブズブである。既にBESTYである。
ロック、ソウル、ヒップホップの畑を渡り歩いた僕だが、ちょっとそんな事言ってられないくらい、最近のボーイズグループが相当ヤバイ。そんなかでもBE:FIRSTは特に好き。


そんなわけで、今回はメンバーの魅力を語るよりかはその外堀のプロジェクトの意義とか背景について知ってもらいつつ、配信を目前に控えた”THE FIRST FINAL”のプレゼンをしていく。直接会場に行けた人羨ましすぎる

オーディション番組To the Firstを観た経緯

多分、日テレの「スッキリ」で彼らを知ったという人が大多数だと思うんだけど、僕は「日高光啓」という男、いや「漢の中の漢、SKY-HI」経由でBE:FIRSTを知った。
彼のSKY-HIとしての作品は一通りチェックしてて、この前ちゃんみなと共演した曲は気に入っちゃってもこんな記事を書いたし、元々オーバーグラウンドとアンダーグラウンドを行き来し、自分の信念に従う彼の生き様を尊敬してた。


ラッパーとしての彼のラインで一番好きなのは、

俺はアイドル生まれHIPHOP育ち敵の数の分増えた友達
Ken The 390/Shock feat. SKY-HI, KREVA, Mummy-D

当然ZEBRRAのライン*1を引用してる訳だが、ここに彼の苦悩と葛藤と誇りが詰まっている。
アイドルシーンからは「そういうの求めてない」と拒絶されHIP HOPシーンからは「アイドルラッパー」というレッテルを張られてもその実力で全てをねじ伏せ、仲間を増やしてきたSKY-Hi。
そんな彼がBMSG=Be MySelf Groupという「自分らしくあるべき姿でいる」という会社を立ち上げたのも納得できるよね。

で、ふとYOUTUBEでチェックしたら完全に沼った、というのが経緯だ。
       

K-POPの世界的展開

このプロジェクトの背景として、現代K-POPシーンにも少しだけ触れたい。中心は勿論BTSの凄まじい活躍だ。いや、バンタンマジ半端ねーっすと心から言いたい。
“Dynamite”の軽やさと爆発的な盛り上がりが同居する曲展開の妙、キャッチーさとファンクネスを同居させた”Butter”、コロナ禍における若者を代弁するかのようなポジティブヴァイブス、”Permission to Dance”と、楽曲の良さそして国連でのスピーチ等音楽業界を飛び越えた一大ムーブメントとしての役割・・・彼らは間違い無く2021年の主役だった。

www.youtube.com


内需ではなく、外に向けた戦略で世界を振り向かせたK-POP。

・・・そして、日本の芸能界で潰され、逸材達が海外に流出するの間近で見てきたSKY-HIの問題意識と、自腹でプロジェクトを立ち上げ行動に移すその漢気にそりゃあ震えますよ。

その背景の中、満を持して企画されたのが”THE FIRST”という訳だ。

“THE FIRST”


もう観た?
まずもって、エンタメとしてめちゃめちゃ面白い。これ、無料(タダ)で良いんすかね?


一言で言うなら、才能に溢れる(Gifted)男子達の青春群像劇であり、彼らの人生の煌めきと成長の瞬間をぎゅっと映像化したような番組。
才能と才能が交わり向上していくパフォーマンス、逆にぶつかりあった末のチーム機能不全含めてめっちゃリアルで楽しませてもらった。その青春の光が僕にはもう相当に眩しすぎて浄化しかけましたよ(シュワァァァ

と、同時にSKY-HI a.k.a 社長の苦悩と苦渋の決断の物語でもあった。落選者を丁寧に、そして真摯にフォローしコミュニケーションを図る彼の姿に泣いたよね。
「クオリティファースト」、「クリエイティヴファースト」、「アーティシズムファースト」という彼の信念を体現してて、そういう意味で数あるオーディション番組の中でも最も誠実なオーディションだったようにも思う。

その厳しいオーディションを勝ち抜いて結成されたのがBE:FIRSTであり、その番組の集大成。いわば着地点であり最初で最後のお祭りに当てはまるのがタイトルにもある” THE FIRST FINAL”なんですわ。

news.yahoo.co.jp



BE:FIRSTの何が凄いか

最重要事項=音楽の質。世界で戦う上でクオリティが重要ってのは言うまでもない。つまり曲の良さ、歌とダンスパフォーマンスが両立してなきゃね。

この点、BE:FIRSTは一つ抜けてる。まずデビュー曲のチョイスには痺れた。そう、Gifted. ビートにしろ構造にしろ、所謂J-POPというフォームからの脱却を図った正に世界標準な一曲。サビ!歌メロ!!ではなくむしろ「荘厳」・「気高さ」といったわかりやすさと対極に位置するスタンスにプロデュース側の強い意志を感じた。狙い通り?かコメントも日、英以外にも様々な言語が並び世界でファンを量産している模様。

www.youtube.com

こちらで楽曲P本人が深く語ってるのでぜひ観てほしい。

www.youtube.com

 

敷居たけぇよ・・・良さわかんねぇよ!という人もご安心を。キャッチーでわかりやすい曲も搭載済み。オーディションから観ているだけに、実家のような安心感がある。

www.youtube.com

 

このクオリティを出しているのが、THE FIRSTという合宿で成長したメンバー達の歌とダンスによるものなのは誰も否定しないと思う。

その最初の一歩がGifted.の米ビルボード“Hot Trending Songs”で世界1位になるという衝撃であったし、もっと日本で取り上げられても良いニュースだ。いや、ホントに凄いからコレ。

www.thefirsttimes.jp

あらためて、「世界クラス」を目指して結成されたBE:FIRSTの活動に目が、そして耳が離せない。

 

いかがだったろうか?

BE:FIRSTの魅力を語る上でメンバーについては触れなければならないんだけどそれぞれの詳細に触れると2万字いく可能性があるし、たくさんの人が語ってるので今回は割愛する。しっかし、オーディションを番組にするの禁止した方が良い。思い入れが反則的に強くなりすぎる。

オーディションで次々に明らかになるダンスや歌、各自のカリスマと個性がぶつかり合う7人の化学反応が見られるプロジェクトTHE FIRST最後の祭り、"THE FIRST FINAL"はHuluで配信されるのでズブズブのBESTYはもちろん、興味が湧いた人は月末まで見逃しできるのでぜひ。僕は配信組なので楽しみにしてた。

 

https://www.hulu.jp/store/the-first-final

 

それではこの辺でアディオス。

 

 

*1:「俺は東京生まれ HIPHOP育ち」20年の時を経てなお日本最強のパンチラインの一つ

愛が音になってる、MISIA×藤井風の"Higher Love"について徹底的にゴスペル解釈する

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あけましておめでとうございます。

 

年末からいまだに紅白の録画見てるんだけど、ここ数年で一番よかったね。

「歌心」としか言えないヒロジの熱唱も、ミレパのアヴァンギャルドで紅白っぽさ皆無のヒリヒリしたパフォーマンスも、「歌は我が命」を体現するキー様も全て自分に響いた。

でも、やはり一番感動したのはMISIA×藤井風の"Higher Love"だった。

リリースからは暫く経ってしまったけど、紅白のパフォーマンスに触れながら色々と語っていきたい。で、読んだ人が「ゴスペル」というジャンルについてちょっと知った上で"Higher Love"を聴いて、より深くこの名曲を味わえたらこれ幸い。

ちな、この記事はゴスペル歴10年くらいの奴が自分の体験を基に書いてるので悪しからず。

 

ゴスペル・・・?

日本でのイメージ

多分みなさんがゴスペルと聴いてイメージするのはほぼ2つ。

まずは日本の「ゴスペル」イメージを「アカペラ」と誤認させてしまったあの方々

そしてウーピー・ゴールドバーグ主演の映画、「天使にラヴソングを」だ。

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この「天使にラヴソング」は間違いなく名作だけど、教会でシスター達が合唱するイメージも実は"one of them"でしかない。本場のライブではむしろフルバンドでグルーヴィな演奏を伴うスタイルで歌唱するパターンの方が主流。超絶かっけーです、ハイ。

そもそもの定義は過去にもゴスペルについて書いた。

定義的にはゴスペル(Gospel)とは"God"と"Spell"が合わさった造語。

つまり「神様の言葉=福音」という意味だ。

古くは18世紀、アフリカから奴隷としてアメリカへ連行された黒人達がキリスト教に改宗させられ、神への賛美を独自のリズムと音階で音楽へと昇華させたのがスピリチュアルミュージック(黒人霊歌)としてのゴスペルであった。

引用元:https://imlv40.hatenablog.com/entry/2018/03/27/221711 

述べてきたようにゴスペルという音楽は、「キリスト教」と不可分であり、そして後にブラックミュージックに大きな影響を与えている。だからゴスペルが無ければ、その影響を受けた後世のミュージシャン達、つまりMISIAや藤井風も生まれてなかったかもしれないのよ。

改めてゴスペルを構成する重要な要素はこんな感じだ。特に1はマスト。ここテストに出まーす。

1. 神への賛美(愛のメッセージ)を歌う

2. 複数人数のクワイア(聖歌隊)を構成され、主旋とハモリに分かれる

3. ソウル・ブラックミュージックのリズムと音階で歌われる*1

 

Higher Love


というわけでゴスペルを少し知ってもらった上で曲についてもうちょい深掘りしていきたい。

歌:MISIA、作詞作曲:藤井風って字面がまずもって最強すぎる。こんなん絶対凄いですやん・・・ってなるけど、述べてきたゴリゴリのゴスペルソング。

まずは歌詞

タイトルの"Higher Love"をゴスペル流に解釈すると「天におられるあなたに愛を高く届けます」って意味。または「あなたの崇高な愛」という意味で、どっちにも解釈できうる。

ちなみにあなた=GOD(神)ね。おそらくほとんどの人はキリスト教的な「神様」に馴染みが無いと思うので、何か目に見えないなんか不思議な力/存在、と置き換えてもいいと思う。

届け higher love

この手にhigher love

この身の中に宿る確かな愛を引き上げて

自分の内なる思い、愛を届けるという出だしから強いメッセージ。からの

この声を誰に届けよう行き場のない寄る辺もない沈む私へ

ゴスペルの歌詞って基本、「こんなに小さな私だけどあなたがいればマジで最強っす、何も怖くないっす!」って意味なので、

汚れのない終わりのないあなたへ

というゴスペルで頻出の歌詞"pure(汚れのない)"とか"immortal(不滅の)"に繋がっていく。

風楽曲で言えば、『何なんw』に一番近い歌詞で、あちらは「Higher self」を歌っている。

ここで、本人が"Higher self is something like GOD."と言及するようにスピリチュアルな意味で神様と繋がる精神性を大事にしている。初めて聴いた人が何言ってるかわかんねーなってなるのは当然の事。

翻って"Higher Love"においても、

遥か遠く遠くいるような気がしてたけど

本当はいつも一緒だったのね

深い眠りから目を覚ました

今静かにあなたに叫びます

という目を開かされる="Awakening"を歌っていて、目覚めという意味で一貫性があるのがわかる。藤井風というアーティストが初期に歌っていることから一貫してブレずに、メッセージを届ける姿勢がわかるし、それを他でもないMISIAに提供しているって事だ。

受け手のMISIAは?

じゃあ楽曲を受けて歌うMISIAはどーなのよっていう所だが、彼女も子供の頃から教会でのゴスペルに慣れ親しんできた模様。*2

MISIAの楽曲で一番ゴスペルしてる曲が、"THE GLORY DAY"。

うめぇ・・・口から愛が出てるわ。愛が音になってる。

こちらはイエス・キリストが生まれた日を祝している熱いバラード。クリスマスの元々の意味やね。

他にもLive for AfricaやTICADでの活動等、彼女の隣人愛とでも呼ぶべき慈愛の精神がそこかしこに溢れている。*3

 

というように、藤井風の精神性が表れたゴスペル調の歌詞とメロディをMISIAが歌うってのこの上なく自然でスムースな流れってのがわかる。

紅白でのベストアクト

そして、既に何回録画を見たかわからない二人の共演、"Higher Love"!

まず前提としてNHKの演出が素晴らしすぎる

風ファンとして正直心配になる程に「推された」紅白歌合戦。実家からのワープ演出でのサプライズで新人としては異例の2曲を演奏し、これだけでファンとしてはお腹いっぱいだった訳だが、まさかの歌:MISIA、ピアノ:藤井風。字面が最強すぎる。

サプライズからのサプライズ演出。この流れ!まずは演出Pに惜しみない感謝と拍手を送りたいよね。

MISIAの『明日へ』ラストの熱唱ロングトーンで息も絶え絶えの中、軽快にキラッキラなスマイルでイントロを弾き出す風。精神性が鬼!と思いつつもイントロ始まった時点でもはや最高潮だった。

 

しかし、まだ「上(Higher)」があった。

 

そう、風ハモリである。もうね、「あぁ、この曲はこれが完成形なんやな」と思わせるだけの厚みがあった。やはりゴスペルはリードボーカルとハモリで完成する。

他にも魅力が溢れすぎていたんだけど、文章でまとめ切れる自信が無いので好きポイントを箇条書きする。

 

・MISIAの歌う表情。完全に聖母。くしゃっと目が細くなるのが可愛すぎた。

・二人のドヤ感が最高。これぞゴスペル、これぞアーティスト。

・とにかく風氏の表情がズルすぎた。笑顔もキメ顔もどこ抜かれても絵になりすぎ。

・部屋着からの正装への風衣装チェンジ。これもズルい。

・紅白でしかなし得ないような豪華なオーケストラとビッグバンド。

・紅白のテーマをそのまんま表すカラフルで絢爛なお花。

・MISIAの重心の低い歌とグルーヴ。体の揺れを見てるだけでご飯食べれるレベル。

・ピアノ弾く手やっぱ綺麗すぎん?手タレなの?手タレなのか!?

・ブレイク前の金管楽器(楽曲でいう2:44の箇所

 

最後に特筆したいのはこれぞゴスペルなアレンジ。

まずは、MISIA×風の息ぴったりのハモリとユニゾンね。

ゴスペル特有のテクいフェイクと原曲に無い音程の上下で完全にシンガーとしての最強っぷりを示しつつ超音波かと思うレベルのMISIAの高音。そしてロングトーンシャウト。もう少し上がると子供しか聞こえなくなるレベル。イルカか?

そしてそれに呼応する風ピアノ。もう大泉洋ちゃんのようにブラボーしか言えん。

この曲YOUTUBEで100万再生っすよ?2億だろ!と憤りつつも、世間的には知られていないHigher Loveが歴史と伝統の紅白を〆たと思うとすごく胸熱だし、何度も言うがこの絵を描いていた紅白の演出陣の慧眼に恐れ入る。

 

いかがだったろうか

ゴスペルは音楽ジャンルの中でも一二を争う程ソウルフルでテクニカルだ。以前アメリカの宣教師でゴスペルの先生に言われた大切なメッセージが「ゴスペルは神様へのスペシャルギフトです。だから私たちはできる限り綺麗にラッピングしてから渡す必要があるのです」というものだった。

先日の紅白を観て、この"Higher Love"は思いと技量がありったけ込められた愛のギフトだと強く感じた。これは藤井風の提供コメントとも重なる。

“ゴスペル”。

MISIAさんへの楽曲提供という機会を授かった時に浮かんできたキーワードです。森、教会、インドカレー屋さん…色んなところに行って、インスピレーションを探しました。

降りてきたのは、崇高な愛(Higher Love)を求める、人間くさいゴスペル。

MISIAさんの神懸かった歌声は、本当に天まで届きそうでした。

そして黒田卓也さんのジャジーなアレンジはこの曲をあったかい人間味で包んでくれました。

素敵なものが色々つまったギフトのような作品に仕上げていただいて幸せです。

みなさんのもとに、このHigher Loveが届きますように。

この素敵なコラボレーションが見られたのはゴスペルを歌ってきた人間としてもアーティストのファンとしても至福であり福音であったよ。ありがたやありがたや。

それでは2022年もよろしくね、アディオス。

Super Best Records-15th Celebration-

Super Best Records-15th Celebration-

  • アーティスト:MISIA
  • Ariola Japan
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*1:近年はヒップホップ・トラップとも融合した新しいゴスペルも生まれてる⇨

Anthony Brown & group therAPy - I Got That (LYRICS) - YouTube

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/MISIA#cite_note-livedoor-15

*3:ちな、久保田利伸とのライブ最高すぎるのでぜひ。MISIA Live For Africa~アフリカのためにできること~2008.05.26~27 横浜BLITZ - YouTube

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